第187話「兵士と巫女」
「女の子を保護した」
ダンは指輪に語りかける。
「了解」
耳飾りから返事が返ってくる。全く便利なことだ。この道具を南都ナーラ、正確には冒険者組合が独占している。だからこそ南都の軍には、情報収集の任が与えられた。
おおよその情報は与えられた。しかし、事態の全容は把握出来ていない。副議長護衛を終えて帰還寸前、そんな折に突如連行されたかと思えば、次の任務を言い渡された。無論、一介の兵士としては命令に従うだけである。
そうして、ただひたすら馬で駆けて北までやって来たのだった。今は町外れで休ませてある。
町中を歩いて行く。女の子は後をついて来ている。
「……」
「何かに、囲まれている」
いち早く気づいたのはアラカだった。すぐにダンも気づく。そう巧妙な囲み方では無い。素人だ。接近を許すことなく通過出来るだろう。曲者達は、少しずつ距離を詰めてくる。ダンは僅かに歩速を遅くする。班の者達と目線で確認を行う。振り払うことも可能だ。だが何に囲まれているのか確認する必要がある。
ダンは敢えて、接近させることにした。焦ったい。何せ、なかなか接近して来ない。確実に距離を詰めて来てはいるが、曲者達なりに隠密を意識しているのだろう。遅々として動かない。ようやく姿を現した曲者達を見た時、不思議とダンは納得した。子供である。そして子供を統括しているであろう大人が1人。素人どころの話ではない。
「お姉ちゃんを返せ」
石ころが投げつけられる。ダンは上の空で考える。子供がこんなにも生き残っていたのか。子供は殺したくないというそういう善良な兵士の仕業だろうか。単純に小さいものは見逃しやすいということかもしれない。
「……下さい」
唯一の大人が何やら口にしたようだった。
「何か言ったか?」
「どうか、子供をお返し下さい」
「何も取って食いやしないよ。返せと言われて簡単に返すことも出来ないが」
「――神よ、どうかお守り下さい」
「何を言っているんだ」
「あなた方は町を破壊し尽くすだけでは飽き足らず、子供まで攫おうというのですか。到底、許されることではございません」
結構、ズバズバと言ってくる。躊躇いがない。後ろ盾でもあるのだろうか。いや、それが神とかいう奴か。
「誰だか、分からぬ者に保護した女の子を引き渡せない」
ダンは言う。
「それは私の台詞です。誰だか分からぬ者に町は壊されたのです。彼女は連れ去られようとしているのです」
「ああー、南都ナーラの兵士だ」
「私は巫女です」
子供の統括役、その女はそう答えた。




