第186話「謁見」
「謁見、一体何故でしょうか?」
スーが尋ねる。理由が分からない。
「さあ、分からない。まあ私も同行するから問題はないわ」
食事を終えたナナとスーは何が何やら分からぬまま、皇女の後を歩いて行く。委員長はナナたちに視線を送ると別方向に颯爽と立ち去って行った。エイユーと御者の少女は仮眠に行った。
「皇帝陛下、参りました」
謁見の為にナナたちが訪れた部屋は広々としていたが、簡素で空気が張り詰めているように感じられる。皇女は床に両膝がつくように屈むと深々と頭を下げた。ナナたちもそれに倣う。
「……面を上げよ」
ナナは恐る恐る頭を上げる。そこにいるのは普通の老人だ。高い地位を持つとか、身内であるとかそういう付加価値が無ければ記憶にも残らないような顔だ。
「全く、何でそんなに他人行儀なのだ」
「ヘ?」
「私は、久しぶりに帰省した娘と娘の友人に会いたかっただけなのだが」
威厳は一切ない砕けた口調にナナは意表をつかれる。
「皇帝陛下、謁見の場でそのような振る舞いはお辞め下さい」
皇女は素気無く返事をする。
「娘が冷たい。まあ、いい。お2人とも、娘と仲良くしてくれてありがとう。執事から話は伺っているよ」
「城に案内してくれた人よ」
皇女が囁く。ナナは思い出す。妙に若々しい老人か。印象に残っている。
「指輪を貰ったのだろう。仲良しの印だ。これからも仲良くしてくれ」
スーの指には確かに皇女から受け取った指輪が嵌められている。仲良しの印、広義ではその通りかもしれない。皇女本人が城まで出向くことになったのであまり受け取った意味は無かったが。
「皇帝陛下、客人を困らせないで下さいませ。指輪は確かに私が下賜したものでございますが」
「まあ、あまり時間を取らせるのも申し訳ないな。――戻れ」
最後の最後で少しだけ威厳がでた。
「皇帝陛下、父が申し訳ありませんでしたわ。薄々、目的には勘づいていたのですが。皇帝陛下の命を無下に断る訳にもいかず」
「いえ、申し訳なくお思いになる必要はありません」
スーは何と伝えるべきか少し迷ったようだった。
「……皇帝陛下は仲良しの印と仰っていましたが、私自身もこの度のご縁を大切にしていきたいと思っています。きっとそれが下らない諍いを止める為の第一歩です」
「ありがとう」
こうして突然、飛び込んで来た皇帝との謁見という問題はひとまず解決した。だが、本来の難問について挑まなければならない。先程、ナナたちとは逆方向に去っていった委員長。彼はどう動くつもりなのか。そしてどう動けばいいのか。行く末は全く見通せていないのだった。




