第180話「既定路線」
「……滅多なことを言うものではない」
委員長は冷静さを取り戻したようで言った。
「ボクの言うことが事実か嘘かは重要ではありません。ただ狼馬帝国のやり方は、孤独、絶望的な孤独を生み出すことになりかねないということを指摘したまでです」
「ナナの言う通りだ。ナナが人か悪魔かなんて関係ない。ナナは私の仲間なんだ。――委員長、あなたの主張には綻びがあるのではないでしょうか」
「愛を否定する者を認められる筈がないのだろう。それは最終的には人という種の衰退を意味する。それは神への反逆の前に、人間に対する裏切りだろう」
委員長の語りは理性的だった。
「……それは、神への侮辱?」
エイユーが反応した。ナナは暫し考えて理解する。成程、神への反逆という意を蔑ろにするのは不味かったのだろう。委員長は大分、思い切った表現をしたものだ。委員長の信念というものがより色濃く感じられる。
「侮辱ではない。神は人間に尽きることの無い愛を注ぐのだから、神への最大の反逆とは、無限の愛を与えられた人間に対する裏切りなのだ。だから人間への裏切りは最も重い罪になり得る」
委員長は滔々と語ったが、エイユーはいまいち納得していないようだった。しかしそれ以上の発言はしない。
「さて、仲良くなれればと思った。そしてそれは可能である筈だ。その可能性が実現するのは今では無いが」
「何をおっしゃっているのですか?」
「誠に有意義な時間だった。今後に役立てるとしよう。我々もそろそろ動き始めることとする」
「お待ち下さい」
スーの呼び止め虚しく、委員長は去って行った。
「今回は失敗だ」
スーは呟く。
「今回、ですか?」
皇女が尋ねる。
「そう簡単に引き下がりませんよ。また、話し合いを設けていただきます」
スーは答える。
「……そうですね。では、少し時間を空けましょうか。時間をおいて気分を変えれば妙案も思いつくことでしょう」
皇女は同意しつつも、何か考え込んでいる。
「どうかなさいましたか?」
「委員長の言ったことはもっともだと思いまして。知らない相手との話し合いが上手くいく筈がありません。委員長個人については語れませんが、その背景にあるものは少し語れるかもしれません」
委員長のことは先程の話し合いで少し知れた。だが、まだまだ底知れなかった。
「神聖狼馬帝国の歴史について少しお話ししましょう」
皇女は語り始めた。




