第18話「はじまり」
冒険者組合に戻ってくるや否や、ナナはスーを抱きしめた。
「無事で良かった」
「ナナは心配しすぎるだよ」
ナナはスーを殊更に強く抱きしめる。
「ちょっと、ナナ?」
「やっぱり、いい匂い」
スーは少し顔を赤らめたが何も言わず、ナナの頭を撫でた。ナナは束の間の安息を堪能する。
「……心配させてごめんね」
スーはポツリと呟いた。
「ボクの方こそ守れなくてごめん」
スーがふふっと笑い声を漏らした。ナナもつられて笑い出してしまう。ナナはなんだか愉快な気持ちになった。
「組合長のところに行かなくちゃ」
「そうだね」
ナナとスーは組合長の部屋に向かった。
「まずは労いの言葉を述べさせてもらう。ご苦労だった」
ナナとスーが部屋に入ると、組合長は開口一番にそう言った。
「お前たちのはたらきによって南都ナーラの平穏は保たれた。しかし、些か目立ち過ぎたな」
「申し訳ございません」
「いえ、ナナは悪くありません。私の注意不足のせいです」
「まあ、過ぎたことは仕方ない。……お前たちには長期任務を与える」
「長期任務ですか?」
ナナは尋ねる。
「ある要人の護衛任務、都議会からの依頼だ。奴ら冒険者組合から人員を差し出せと言ってきた。タイミングを図ったようにな。つい先程、手紙で依頼が来たばかりだ」
「何故?」
都議会は軍隊を有する筈だ。わざわざ、冒険者組合に護衛を依頼する理由がない。
「牽制だろうな。冒険者組合を従わせたという実績が欲しいだけだろう。本来はこんな依頼、断るのだが、今回の失態がある。――ナナ、おそらく誘導されたな。どこからかは分からないが、全て都議会の筋書き通りだったという訳だ」
ナナは俯く。
「とは言え、こうした事情を抜きにすれば、重要な任務であることには変わりはない。スーとナナには引き続きペアで任務に当たってもらいたい」
「分かりました」
ナナは答える。
「任務の詳細を教えて下さい」
スーが言った。
「ああ、今回の任務では、六都同盟、その締結のために大都コーサカまで赴く使者を護衛してもらう。この任務は都議会軍との合同任務になる」
「つまり、ボクたちは壁役ってことですか?」
「ああ、こちらが強く出れないことをいいことに体よく万が一のセーフティーネットとして活用しようとしているのだろう。だからこそお前たちを派遣する。――お前たちは、冒険者組合エージェントだ。そのことを忘れるな」
「分かりました」
「具体的な出発日時はまた、連絡があるそうだ。それまで英気を養ってくれ」
ナナとスーは部屋を後にした。
「少しは休めるといいね。なかなか、休む暇がないから」
スーが笑った。
「本当」
ナナは相槌を打つ。
「私日差しに弱いんだけど、どうしよう。今回も少し日焼けしているんだよ。まあ、ネットワーク生物はその辺、案外、結構気をつかってくれていたみたいだけど。ナナ、守ってくれる?」
「……それは無理かも」
「ふふ、冗談。帽子被って肌をなるべく出さないようにすれば平気だから」
「良かった」
ナナは胸を撫で下ろす。
「でも、それ以外からは守ってね。私もナナを守るから」
「もちろん」
ナナは返事をした。いつだって不安を消すことは出来ない。それでも新たな旅のはじまりが上手くいくことをナナは願った。




