第179話「信念」
「さて、本題に入るとしよう」
茶を飲み終えると委員長が言った。
「この場で、ですか」
「皇女様がおり、不肖、委員長を務めます私もおりますので、話し合いの場としては十分でしょう」
「その通りですね。ご厚意感謝致します」
スーは言った。ここまでの流れは一切の滞り無く不気味な程に上手くいっている。展開としては早すぎる。心の準備をすることも出来ずに話し合いは始められてしまった。
「お客人の意見を聞かせてもらおう」
「神聖狼馬帝国と私達の陣営、双方にとって現状は利にならないと考えております」
「利にならないか。どういうことだ?」
「北、神聖狼馬帝国の技術力は優れております。私達を滅ぼすのは容易いことでしょう。しかし、こちらには数があります。私達を滅ぼす為には、多くの犠牲を払うことになるでしょう」
皇女には否定された主張だ。けれども結局、それ以上の主張は難しい。
「滅ぼすなど、そのようなことは考えていない。秩序、平和。世界は1つにならなければならないのだ。その為にはいかなる犠牲も支払う」
「……では、尚更、利はありません。私達は止まりませんよ。総力を持って、全滅するまで戦い続けることでしょう。世界は1つを掲げるのならば、欠落はあってはならないのではないしょうか」
スーは言葉を絞り出した。
「ほう、納得は出来る」
委員長は、頷く。
「だが、それならば、仕方が無い。必要な犠牲、払うべき経費だろう」
相容れない悪人では無い。思考を停止した愚者でも無い。委員長はきっと善人であり、賢者であるだろう。だが、信念は受容出来ない。
無理では無いか。分かりきっていたことだ。戦争は止められない。
「1つになりたいのならば、壁を破ればいいのではないでしょうか。北と南の断絶を解消すれば、自ずと互いに認め合うことが出来る筈です」
「神聖狼馬帝国の目的はそのもう一歩先にある。多様性、では駄目なのだ。皆が同じ、文化・思想を共有して、外見の差異に変わり無く、社会の一員として参画出来ることこそが必要なのだ」
魅力的に聞こえる考えだった。完璧ではないが、心地よい理想である。でも、ボクが受け入れることは無い。ナナは考える。
「皆か。それが悪魔だとしても?」
ナナが尋ねる。
「ふふ、悪魔は流石に認められないな」
委員長は冗談と受け取ったのか微笑を浮かべた。
「そうか。では、言わせてもらうとボクは悪魔なんだ」
「何だと!」
委員長は驚きの声を漏らす。一方、スーは目を覚ましたような表情になる。
「もう1度言う。ボクは悪魔らしいよ」




