第178話「委員長」
「委員会とは、実質、神聖狼馬帝国の意志を決定する機関です。元々、複数あった委員会が1つの委員会に吸収されて、意思決定機関として機能するようになりました」
皇女が説明する。
「つまり、委員会への働きかけが上手くいけば、戦争を止められるということですね」
「ええ、その通りよ。お2人には期待しているわ」
言葉とは裏腹に、皇女の表情はナナ達が上手くいくとは微塵も思っていないようだった。怠惰と諦めが入り混じった表情である。
「精一杯、頑張ります」
「ところで、お遣いの――」
スーは周囲を見渡す。ナナ達はただいま朝食を取っていた。しかしエイユーの姿が見えない。
「おい、放せ」
「何しやがるんだ」
エイユーは男を2人引きずって来た。昨日、御者の少女に突っかかってきた男達である。
「こいつらは神を侮辱した。罰してもいいかな」
「何が、あったのですか?」
皇女が尋ねる。
「……人もどき、酷い言葉だ。それは愛を否定する言葉だ。だから罰を与える。これは正しいことでしょう」
ああ、エイユーはこういう奴だった。まあ、男2人が飛ばされても、どうも思わないが。
「すまないな。教育が行き届いていなかったようだ。人間は神の下に平等であるということをこいつらは理解出来ていなかったようだな」
屈強な大男がのっそりと現れた。熊みたいな男だ。粗野な印象を受けるが、よく手入れされた髪や爪からはまめな性格を察することが出来た。
「……委員長」
「よくおいでくださった、第二皇女殿下。そして、お客人も」
「どうして、ここにお出でになったのですか?」
「お客人は、委員会との話し合いを望んでいるのだろう。だが、見知らぬ同士では建設的な話し合いも出来ないだろう。事前に親睦を深めようと思ったのだ。だが、その前にこいつらを再教育せねばな」
男2人は連行されて行った。
「さて、という訳で朝食でも一緒に取ろうと思ったのだが、もう終わってしまいそうだな」
大男、皇女の反応からして委員会の長だろう、は口惜しそうに言った。
「ふむ、よければ私がお茶を振る舞うことにしよう」
「お願いします」
皇女は答えた。特に情感の篭っていない返事である。
お茶を淹れる仕草も実に洗練されていた。そして、碗に茶を均等に注いでいく。やはり、まめな性格だと思われる。
「ほう」
委員長はお茶を飲むと一息ついて、声を漏らした。
「お客人、どうだろうか?」
「安らぐ味ですね」
スーが答える。
「その通りだ。心が安らぐ。そしてそうした状態でこそ、対話というものは成り立つものだ」
「……そうかもしれませんね」




