第177話「ケモ耳」
ナナとスーは部屋に案内された。
「どうぞ、ゆっくりお休みください」
「……どう思う?」
スーが囁く。随分とすんなりとここまで来た。だが、上手くことが進んでいるとは断定出来ない。罠の可能性もある。寧ろ、罠の可能性の方が高い。
「……どちらにしろ、選択肢は1つだ」
前進あるのみ。火中に飛び込んで行くことが正解なのならばそれを選ぶしか無いだろう。
「休もうか」
スーは微笑んだ。いついかなる時も休息は疎かにしてはならない。ナナもスーもよく理解していることだった。だが、横になろうとした時、扉の向こうから何やら揉め事が起きている音が聞こえてくる。
「城内で人もどきが何をしているんだ?」
「私はれっきとした人間だ」
「そうか。ならば、人間としては欠陥品だな」
「貴様、そのような物言いが許されると思っているのか」
「皆、内心思っていることさ」
ナナは扉を開ける。そこには3人の人物が立っていた。男2人と、少女1人。男2人は少女を小馬鹿にしたような表情を浮かべていた。
「おっと、お客人ですね。お見苦しい所をお見せしました」
男達は抜け抜けとそんなことを言って、去って行った。少女、あのペガサスの馬車の御者がこちらを見てくる。頭に巻いていた布が足下に落ちており、顔がはっきりと見える。
金色に輝く瞳と目が合う。虎視眈々と獲物を狙う獣のそれとよく似た瞳だ。ナナは瞳から目線をずらすと、少女の頭部を見た。そこには犬や狼といった類の生物とよく似た耳がついていた。ナナの目線に気づいたのか、少女は慌てて布を拾い上げると頭に巻く。
「何か、御用ですか?」
スーが尋ねる。
「あなた方の様子をよく見ておくようにと言われました」
「見張りと言うことですか」
「いえ、気にかけておくようにということです。負担になりませんようにこっそり見ていようと思ったのですが。――騒動を起こしてしまい申し訳ありません」
「いえ、お気遣いありがとうございます」
スーが答える。だが、少女の言葉はどこまで信用出来るものか。皇女、気が置ける人物である。油断ならない。
「見た目について何も言わないんだね」
少女が呟く。
「私も似たような経験はあるから。まあ、私の場合は仲間に恵まれたからあなたの気持ちを全て理解出来るかは分からないけれど」
スーが答えた。
「いえ、私にも皇女様がいます」
「そう。それは良かったです」
「私はここでお2人に余計な者が近づかないように見張っております。よくお休みください」
「どうも、ありがとう」
スーは礼を述べる。そしてナナ達は部屋に戻る。その日は結局再び言い争いは起きなかった。




