第176話「本部」
ナナは馬車の窓から、外を眺めていた。馬車は山脈伝いに進行しているのが確認出来る。
「もう間も無く到着致します」
皇女が言った。馬車の進行方向には巨大な樹木が見えた。山のように巨大な樹木。それを支える根は裾野のように広がり、町が形成されているのが見える。馬車は段々と高度を下げて行く。そしてふわりと着地した。上空からは裾野のように見えた根は、立体的に畝り、ねじ曲がり、交差して、町の様相を迷宮のようにしていた。
「ここが神聖狼馬帝国の政治の中枢、根本の町、本部よ」
馬車は入り組んだ町中を進んで行く。人々は遠巻きに見ていた。馬車は中心部、すなわち木の幹の方向に進んでいるようだった。
中心部に到着する。そこには巨大なうろが形成されていた。うろの内部は、碗のように窪み、半分地下になっている。そしてうろの中央には城がある。樹木で形成された城だ。建築工程は見当がつかない。魔術だろうか。伸びて来る枝や蔓をそのまま加工して城が構成されている。建てられているというより、編まれているといった方が感覚としては納得出来る。
御者に扉を開けてもらい、ナナ達は馬車から降りる。手を差し伸べてもらい何だか気恥ずかしくなる。乗る時もこうだった。急いでいる中、手を添えて馬車に乗せてくれたのだった。ナナは御者を見る。厚手の布を頭に巻き付けており、目元は見えない。ゆったりとした衣服を身につけていたので体格は分かりにくかったが、背丈は自身より少し高いくらいであった。
「私は神聖狼馬帝国、第二皇女よ。城の中に入れてちょうだい」
うろの淵、城へと続く橋の前に立つ番人に、皇女は言った。番人は馬車をちらりと見る。そして、皇女の身なりを見た。
「少々、お待ちください」
番人は、側にいた同僚と思われる人物に耳打ちする。そして、その人物は小走りに掛けて行った。おそらく今、伝言が行われていることだろう。そして、存外早く、城から人が出てきた。橋を堂々と歩いて来る。
「これは、これは皇女様。お久しぶりでございます」
皇女に語りかけて来たのはおそらく老人の筈だ。だが、若く見える。老獪であったり、単に活力が溢れているのとは異なる若さが感じられた。顔の造形か、姿勢の良さか。妙な爽やかがあった。
「ええ、久しぶりね」
「まことに久しぶりでございますね。ところでそちらの方は?」
「客人よ。彼らを委員会の面々と引き合わせて欲しいの」
「ふーむ、委員会の方々とですか。話を通しておきましょう」
「その前に、私から至急報告しなければならないこともあるわ。まあ、間も無く別筋からも報告はいくでしょうけれど」
皇女は軍隊の侵攻について述べた。
「何と、それはお労しい。まずは休息が必要でしょう。城へ案内致します」
ナナ達は城へと向かった。




