第173話「聖なる国と皇女の夢5」
「――まあ、格好いいこと言ったけれども建前ね。そうでなければ、彼等の存在を隠したりしなかったわ」
スーは少しがっかりした表情を浮かべた。
「何せ、彼等と私達とでは愛を交わすことが出来ないわ。そして、愛の結物として子を成すことも出来ない。どうしても隔たりがあるのよね。神聖狼馬帝国はそんなことを認める訳にはいかないだろうけれど」
皇女は言った。
「認める訳にはいかないとは、どう言う意味ですか?」
スーが尋ねる。
「神聖狼馬帝国は1つである必要がある。外れる者があってはならないのよ」
仲間外れは許さないか。その言葉は一見、耳触り良く聞こえる。だが、その発想の行く着く先は、普通では無いものを排除していく社会だ。
「……処分されそうになっていたの。私は哀れに思ったわ。そうしたら彼等を引き受けることになった。私が側に置いているのは、そう言うだめな子ばかりよ」
だめな子をと表現したが、皇女はそれ程、嫌がっていないようだった。それから、皇女が合図を出すと、小さい人はその場からいなくなった。
「お優しいんですね」
スーが言った。
「ただの馴れ合いよ。私もだめな子で気づいたら年をとっていた」
皇女は溜息をついた。
「やはり、私に出来ることがあるなんて思わないわ。でもあなた達なら何か出来るかもしれない」
皇女は小箱を開けると指輪を1つ取り出した。
「これをあなたに贈るわ。紋様が刻印されているのが見えるでしょう。皇女のお墨付きであることを表すわ」
皇女はスーに指輪を手渡した。
「あなたも呆けていないで」
皇女はエイユーに向き直ると言った。そう言えばエイユーは側にいた筈なのにずっと存在感が無かった。
「どうして、叱ってくれないの?」
「意味の無いことだからよ」
「僕は無意味なんだね」
「違うわ。あなたには、お2人を本部まで案内してもらいたいの。新しい任務よ。きっと成功させてね」
「はい」
エイユーは元気よく返事をする。声が少し裏返った。こうした様子は純情な少年だ。
「本部とは何ですか?」
「神聖狼馬帝国を実際支配する者達ね。私なんかにでは無く、直接話をつけてくると良いわ。指輪があれば、少なくとも機会は与えられるでしょう。話が上手くいくとは限らないけれど」
「ご便宜を図っていただきましてありがとうございます」
スーが頭を下げた。ナナも追従して頭を下げる。
「頑張って下さいね」
皇女が言った時、小さな影が飛んできた。そして壁にぶつかり跳ねる。ぶつかったことをものとせず小さい人は体勢を整えると言った。
「皇女様、緊急事態です」




