第172話「聖なる国と皇女の夢4」
「人、ですよ」
皇女はナナの抱える生物を指して言った。
「まごう事なき人です」
姿は人である。だが、小さ過ぎる。大体、人の頭部と同じくらいの背丈であろうか。だが、人形と見るには生々し過ぎる。受けた印象としては鼠や兎と言った小動物だ。ナナは地面にゆっくりと下ろす。
「ごめんなさい。お怪我はありませんでしたか」
上手く状況は把握出来ていなかったが、ナナは取り敢えず小さい人に尋ねる。
「ええ、大丈夫です。驚かせてしまったようですね」
ナナは反射的に、耳を抑える。虫の羽音のように耳障りな甲高い声だった。
「その通りです。動く影に驚いてしまって。申し訳ありませんでした」
ナナは耳から手を離すと顔を顰めないように意識しながら、謝罪を述べる。
「さて、食器の片付けお願いね」
皇女が横から口を挟む。
「かしこまりました」
食器は地面を滑空していくように見えた。そして、テーブルからはあっという間に食器が無くなる。
「さて、先程の部屋に戻りましょう。彼等について、教えて差し上げましょう」
今すぐ問い質したい気持ちを抑えて、ナナは皇女に付いていく。
「しかし、驚きました。彼等の存在が露見してしまうとは思いませんでしたわ。随分と身のこなしがいいんですね。通常、彼等は見ることも触れることも出来ない速度で動くのですが」
皇女は、ナナをじっと見る。こちらに興味を持ち始めているようだ。これは幸いかもしれない。
「本題に入りましょう。初めに申し上げた通り彼等は人です。人として認められていなければなりません」
皇女は、鈴を持つとチリンと鳴らした。その瞬間、足元に小さい人が立っていた。よく見れば、ナナが吹き飛ばしてしまったのとは、また違う人のようだ。
「彼等はお2人の目には奇妙に映るかしら。しかし、速く動けたり、頭が良かったりと言った特性や」
皇女は、ナナを見る。
「――肌が白かったり、緑色だったり、あるいは翼が生えていたりといった特徴のように」
続いて、皇女はスーに目線を向ける。その視野は、スーの真っ白な肌を捉えている。
「――小さいと言うのは個性に過ぎません」
皇女の言葉は魅惑的だ。ナナは隣にいるスーが皇女の言葉に心惹かれているのが分かる。スーの外見は周囲から浮く。それをわざわざ指摘するような下卑たやつは相手にしないし、異様さを打ち消す程の美貌を持つスーに対して、その白さを指摘する者はそういないが、苦労はしてきたことだろう。
ただ、少し過剰でもある。自分達と小さい人、姿は似通えど、同じ生物種に分類していいものか。ナナはサカイ村での出来事を思い出す。そもそも人とは何だろうか。
「彼等は私の為によく尽くしてくれます。それには報いたいものですね」
皇女は言った。




