第17話「一件落着」
ナナは愛の園の拠点跡に駆けつけた。ナナはすぐ様、スーの姿を認める。ナナは息を静めるとスーに近づこうとする。しかし、人質の一般人や冒険者が邪魔して、簡単には近づけそうはない。その時、スーがマント、ネットワーク生物に向けて〈火矢〉を放つのが見てとれた。
「スー!」
ナナはスーの漂白体質のことは重々承知している。それでも仲間が捕らえられている状況というのは冷静ではいられなかった。スーは無事だった。ナナは安息の溜息を漏らす。しかし、まだ気は抜けない。ナナは側で冒険者に指示を出している組合長に近づく。
「到着しました」
「間に合ったか。最後の追い込みだ。気を引き締めてくれ」
「ボクは念の為の予防策を張っておきます」
ナナは、組合長との距離を更に詰めると囁きかける。
「……成程。任せた」
ナナはスーの方向を見やる。スーはネットワーク生物の逃げ場を無くすように四方を火で囲む。操られていた人たちの動きが乱れる。冒険者たちは着々と人質を保護していっている。彼らは熱めの湯船に浸からせれば支配が解けることだろう。ナナは徐々に薄くなっていく人の壁の合間を縫ってスーの元に近づいていく。
「あんた、炎系統の魔術は使えるか?」
冒険者の1人に声をかけられる。
「〈ヒダネ〉だけ」
「そうか。では回り込んで距離を詰めてくれ。今はとにかく数が欲しい。もう一息だ。俺はここから援助をする」
「ええ、そのつもりです」
〈ヒダネ〉は攻撃魔術ではないので投げたり飛ばしたり出来ない。接近する必要があった。
ナナはネットワーク生物を挟んでスーの反対側に回る。スーと目があった。ナナは少しだけ手を振った。〈ヒダネ〉、既にスーを始め、冒険者たちによって炎の壁が作られている中、どれ程に効果があるのか分からないが、ナナは魔術を行使する。
「……もう逃げ場がありません」
突然、ネットワーク生物が火の壁を通り抜けた。
「ああ、熱い熱い」
「やばい、自棄になっているぞ」
誰かが声を張り上げた。
ネットワーク生物は少しずつ小さくなりながらスーがいる方に向かっていく。
「こっちだ」
ナナは掌を上空に掲げる。収納魔術の解除。媚薬キノコ最後の1本がそこにはあった。ネットワーク生物が動きを止め、こちらを見る
「ああ、そんな所に――」
ネットワーク生物は吸い寄せられるように近づいてくる。 追い詰められたネットワーク生物は繋がりを求めて暴走する。ここまで追いつめて菌をばら撒かれたら堪らない。
本体があまりにもばらばらに離れすぎると菌同士のネットワーク接続が切れ、ネットワーク生物にとっての死が訪れる。けれども追い詰めたネットワーク生物は己の死を厭わず菌をばら撒く。火の壁に囲まれていても微小な菌であるのならば、風に乗って遠くまで運ばれていくだろう。ネットワーク生物を構成する菌、町中でそれが拡散されたらきっと碌でもないことが起きる。
だから、ナナはこうしてネットワーク生物の片割れを餌として提示していた。このキノコにはネットワーク生物との繋がりがある。ネットワーク生物はキノコに辿り着く。もう大分、小さくなっている。ネズミくらいの大きさしかない。
ネットワーク生物はキノコに触れると消滅した。本当に消えたのではない。ネットワークその繋がりを求めてキノコ内に逃げ込んだのだ。キノコの体積が少し増えている。しかし、このくらいならば許容範囲内だ。ナナは再び、収納魔術を発動させる。ネットワーク生物はキノコと共に収納される。ナナは掌に描かれた陣を消す。もうネットワーク生物は外に出てくることが出来ない。
「一件落着」
本当にそうだとは言えないことは知っていた。しかし、今は安堵の気分に浸りたかった。
ここまでが導入……




