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ナナの世界  作者: 桜田咲
第1章「天路歴程」
169/331

第169話「聖なる国と皇女の夢1」

 エイユーが扉を開ける。部屋の人物と目が合う。


 第一印象は老婆であった。だが、よく見れば、そこまで年老いている訳でも無い。多少のほうれい線はあったが、中年と言って差し支えない年齢だろう。だが、酷く疲れた顔をしていた。それが年齢を誤認させた要因だと思われる。


「お帰りなさい」


「ごめんなさい。僕は任務に失敗しました」


 エイユーは挨拶を返さずに謝罪の言葉を述べる。


「……それは残念ねえ」


 エイユーは俯く。


「まあ、いいわ。椅子に腰掛けなさい。そちらのお2人もお構いもせずにごめんなさい。どうぞ椅子にお掛け下さい」


 ナナとスーは促されるままに椅子に座る。


「さて、お2人はどちらからお出でなさったの?」


「南都ナーラから交渉に参りました」


 スーが答える。


「交渉、交渉ねえ。何の交渉?」


「その前にあなたが何者なのかお聞かせ下さい」


「私はただのおばちゃんよ」


「……彼を大都コーサカに派遣したのはあなたですか?」


「それは、私ね」


「もう一度、あなたが何者なのか伺ってもよろしいでしょうか?」


 自称ただのおばちゃんは溜息をつく。深く疲労を吐き出すような溜息だ。


「私は、神聖狼馬(ロウバ)帝国の第二皇女よ。この肩書きには何の意味も無いけれども」


「……狼馬帝国」


 ナナは呟く。


「帝国とは何ですか?」


 スーが尋ねる。


「複数の都を統括する仕組みよ。仕組みの要となる皇帝、その第二子が私です。まあ、名ばかりの肩書きよ。平和的に大都を傘下に置ければ、多少は待遇も改善されたのかもしれないけれど、失敗だったようね。もう、本当に駄目な子」


 皇女はエイユーを見る。


「狼馬帝国が存在し続けていたのならば、南にも情報が伝わっていてもいいと思うのですが」


 ナナが尋ねる。いくら北と南が断絶しているとは言え、南都ナーラは北の領域と距離は近いのだ。多少は情報が漏れ出てきてもおかしくないだろう。


「言ったでしょう、名ばかりなのよ、帝国なんて。そして、皇帝の血統もね。町の住人も自分達が神聖狼馬帝国なんて、たいそうな名前の国に住んでいるなんて思っていないでしょう」


 皇女はまた溜息をついた。


「とは言え、名前というのは重要ね。皇帝の血統は各都の統治者にとって権力を示す要素となるわ」


 皇女はスーとナナを見る。


「――それで、南都ナーラのお2人は何の交渉に来たのかしら」


「和平交渉に来ました」

 

 スーが答える。


「無理ね。私にはそんな交渉をする資格は無い」


「あなた自身はそうかもしれません。しかし、あなたの肩書きには力があるのでしょう」


「はっきり言うわね。まあ、いいわ。話を聞かせて」


 皇女は気だるげに言った。






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