第168話「異文化交流」
町はどこか静かな印象を受けた。住人の性質故だろうか。人の多さに対して、活気をあまり感じられない。
エイユーに先導されて、ナナたちは通りを歩く。通りは賑わっていた。その点は南都ナーラと変わらない。けれども、小じんまりとまとまっていてやはり静かな印象を受ける。
時折、渦巻きと棘を組み合わせたような紋様を衣服に刺繍している人がいて目を引いた。袖であったり、背中全体であったり。新都カバネクラの執権補佐サガミも身につけていたやつだ。ナナはそこに北らしさを見出す。
取りに足らない感想だが、こうした積み重ねが相互理解へと繋がって行くのではないかとナナは思う。とは言え、互いに反目し合う全体の中で個人の素朴な思いは掻き消されるのがままある現実である。
「ねえ、服の紋様は何か意味があるの?」
ナナは尋ねる。
「紋様を辿って神が通り抜けて行くと言われているよ。つまり、紋様は道なんだ」
エイユーはナナの方を振り返らずに答える。思いの外、丁寧に答えてくれた。
「エイユー、あれは何?」
今度はスーが尋ねる。エイユーは振り返る。スーが指差した先には、建築物があった。それは通りに並ぶ建物の1つである。門戸には非常に精刻な紋様が彫刻されている。そして開け放たれた門の先には小道が伸びているのが見えた。5、6歩で歩き切れそうな短さである。そして、奥に小さな家屋がある。幼子が身を縮めたら入れるくらいの小さな家屋である。玩具のようだ。
「あれは、神殿だ。簡易のだけれどね。神に祈る、つまり神への愛を伝える場所だよ」
そうして、エイユーはまた、先導を始める。
エイユーが堂々としているおかげかナナたちに疑いの目を向けられることは無かった。スーは帽子にスカーフで顔を隠していたが、それもあまり気を引くことは無かった。
エイユーはやがて、ある建物の前に立ち止まる。立派な屋敷だ。塀で囲まれている。侵入は困難そうだった。まあ、侵入する必要は無い。エイユーは表の門を開けると堂々と塀の内側に入る。咎める者はいない。ナナたちも続いて入った。そして建物の中に立ち入って行く。
エイユーの足取りは迷いが無かった。エイユーは部屋の扉の前に立ち止まる。緊張しているのだろうか。手が少し震えている。
「ねえ、スー、この町はどうだった?」
「……長閑な町だね」
「良かった。見てもらいたかったんだ。お返し」
エイユーは微笑みを浮かべた。南都ナーラを案内したお返しだろうか。実に平和的な交流である。




