第166話「せっかち」
「休息は堪能したか?」
組合長が問う。
「はい」
スーが答える。
「エイユーはどうだ?」
「楽しかったよ」
エイユーが答えた。組合長は少し驚いた表情を浮かべる。今のは、エイユーの様子はどうだとスーに尋ねたのだと思われる。組合長はスーに視線を向ける。
「町を案内しました。エイユーはきっと力になってくれるでしょう」
「そうか」
「ところで、4人はどうなりましたか」
アラカ、ダン、バンカ、副議長について。なかなか切り出せずにいたがついにスーが尋ねた。
「副議長は丁重に扱っている。バンカは副議長への忠心厚いようだからな。無下には扱えない。だが、丁重に保護している限りはバンカは従う。と言う訳で適切な場所へ派遣した」
「アラカとダンは」
「ああ、軍人か。変わり無く任務に従事していることだろう。軍は都議会傘下から冒険者組合傘下へと移った。だが、これは一兵卒には関係の無いことだ。……余談はこれで終いだ。本題に入る」
余談か。確かに早くも彼らとは距離を感じ始めている。そしてやがて忘れてしまうのだ。そんなことが本題になり得ない。
「スーとナナには、北と接触を図って貰う。正確には北の穏健派だ」
「穏健派ですか?」
「そうだ。暴力では無く、金で解決しようとする優しい御仁だ」
組合長はこともなげに言う。
「北は戦争をしたいのか。したく無いのか。――北も一枚岩では無いと考えた。エイユーに任務を与えた人物は恐らく穏健派だ」
穏健派という言葉はピンとこない。何せ、エイユーは危険人物だ。だが、そもそも人工生物、生物兵器、殺意しか存在しないものと比べたら大分、温情と言わざるを得ないのだろう。そして、そんなエイユーを大都コーサカに使者として送り込んだのは比較的、穏健な人物と見て間違い無い。
「簡単に和平交渉が成るとは思っていないが、糸口でも得られることが望ましいのだ。そしてエイユーの力添えがあるのならば希望を持つことも出来る」
「僕、役立てるの?」
「勿論だ」
ナナは考える。果たしてこの作戦にはどれ程の見込みがあるのだろうか。金だろうが、武力だろうが、結局北は支配を望んでいることには変わりない。
「では、案内するよ」
「え?」
ナナは〈シズカ〉を発動させようとしたやめる。中途半端に抵抗する必要は無い。
そして、ナナたちは瞬時に北にいた。あまりにも早すぎる展開である。そして都が見えていた。規模は大きい。
「行きましょうか」
エイユーは張り切っていた。だが、元に戻るように請求すべきだろうか。
「ナナ行こう」
スーが言った。




