第165話「内面」
ナナは〈シズカ〉の魔術の準備をする。いつでも発動出来るように。緩やかに時間を固定する〈シズカ〉は時空を吹き飛ばすエイユーの能力を抑制する。恐らく、そう見て間違い無い。
広範囲に能力を展開されたら、ナナにはどうしようも無いけれども。スーにエイユーを任せたということは組合長はその辺のリスクを鑑みても、牢から解放する方が益が大きいと判断したのだろう。それに叡智の結晶の効力が働いている、具体的にどうやっているのかはナナには預かり知れぬことだが、決定的に不味いことにはならない筈だ。
エイユーは動かなかった。因縁をつけてきた男をじっと見ている。
「……僕は、何1つ間違っていません。間違っていない筈です。けれども正しい仲間だと思っていた人の気持ちは理解出来ていませんでした。任務を達成することも出来ませんでした」
「何だよ、ぶつぶつ気持ち悪いな」
「悪いのはあんただ。子供相手に何やってる」
因縁をつけてきた男は震え上がる。でかい男が現れた。冒険者だ。
「すまなかったな。怖い思いをさせて。こいつは連れて行く」
男は冒険者に引きづられて行った。
「スー、どう見る?」
結果としてエイユーは手を出さなかって。
「自己同一性を失っているみたいね。そして、それがこちらに協力してくれる理由。幼子と一緒。心が揺れ動いている。もしかしたら本当の仲間にすることも出来るかもしれない」
「それは良かった」
そう、喜ばしいことだ。仲間が増えるのは単純に嬉しいと思う。エイユーにとっても、きっと。独りは寂しいのだから。
その後も通りを歩きながら色々な店を見て回った。エイユーは楽しそうだった。冒険者の一団の壊滅、村の倉庫の襲撃、都での落城、規模の大小はあれどとんでもない事件の元凶には思えない。
まあ、姿から受ける印象が当てにならないのはよく知っている。バンカがいい例だ。とても強そうには見えない。副議長もそうか。普段はただのお爺さんである。――違うことを考えよう。
「楽しい?」
「うん、いい町だね」
「そうでしょう。だから争いを止めたいの。もう、遅すぎるのかもしれなけど」
町にも綻びは出初めている。先程の男、子供相手に金をたかろうなんて正気の沙汰じゃない。普通、そんな選択はしない。一体、どういった事情があったのか。困窮か。金はどこに使われているのか。ナナは通りに男の数が少ないことに気がついていた。
また、ナナは先程の男が僅かに足を引き摺っていたことに気がついていた。冒険者にしても、正確には元冒険者だろう。かくしゃくとしてはいたが、引退していると思われる。
「うん、そうだね。平和は大事だ。平和は正しいことだ」
「その通り。そして平和の為に何が出来るか考えた」




