第164話「休息」
気配を感じて飛び起きる。
「何だ、スーか」
「おはよう。朝ごはん食べよう」
ちょうどお腹が鳴る。ナナとスーは顔を見合わせると笑い合った。実に清々しい朝だ。ナナとスーは分担して朝食を作った。
――そう言えば、アラカは料理が得意だった。道中、あまり意識することも無かったが、料理の腕前は高かった。不意にそんなことが実感される。
「美味しそうな匂い」
椅子に腰掛けながら、エイユーが言った。その口調は無邪気な少年そのものだ。
「食器、運ぶの手伝ってくれませんか」
スーが言う。
「うん、分かった」
エイユーは存外によく場に馴染んでいた。
「さて、頂きましょう」
スーがそう言うと、エイユーは両手を合わせて、指を絡ませると胸の前に手を持って来た。それから目を瞑る。ナナとスーがその様子を眺めているとエイユーは目を開いた。
「頂きます」
エイユーは呟くと、飯を口の中に放り込む。それからスープの碗を口元に運ぶ。続いておかず。ナナ達は黙々と食事をした。
「さて、私達には今日1日休息が与えられています。買い物にでも出掛けましょう」
「僕もついて行っていいの?」
「勿論。あなたと親睦を深める意味合いもありますから」
寧ろ、そちらが主目的である。今の所、何の因果か、エイユーはこちらに従っている。だが、まだ油断は出来ない。今日1日でエイユーという存在を見極める必要がある。
スー、ナナ、エイユーは連れ立って大通りを歩く。町の様子は平穏そのものだった。だが、少し人が少ないように思える。水面下では、きっと準備が進んでいることだろう。戦争の準備が進んでいることだろう。
「スー、ところで、休みならば外に出なくてもよかったんじゃない」
スーの色白の肌は日差しに強く無い。旅の道中もナナに言わない所でスーは苦労していたに違い無いのだ。
「……エイユーが、町をどう見るかが気になって。それに肌は出さないようにしているし」
エイユーは目を輝かしていた。通りを歩くことを楽しんでいるように見える。
「おい、今ぶつかろうとしただろう」
不意にエイユーが因縁をふっかけられた。碌でも無いやつだ。ナナはエイユーに向かって体当たりにも近い感じでぶつかっていこうとしている男を見ていた。そして、それを避けられて苛立つ男も。
「あなたがぶつかろうとした」
「ああん、言い訳か」
単純にヤバい奴だ。町の外だったのならば、追放対象になっていることだろう。淘汰されていく小悪党だ。
「僕は正しいことを言っている」
「こっちは避けようとして足を捻ったんだ。なあ、謝罪しろってことだよ」
「何故?」
「面倒くさいな。大人しく詫びの金を出せって言ってるんだ」
その男はエイユーに殴りかかろうとした。気になるのはエイユーがどう動くかだ。ここで耐えられないのであれば、やはりエイユーはもう一度捕らえておかなければいけない。




