第161話「重力が時空をアレする理論」
「殺していない? どう言う意味ですか?」
スーが尋ねた。
「僕が神に与えられた力は唯一つ、時空を飛ばす力だ。今ここからいつかのどこかへ向かって時空を吹き飛ばす、それだけなんだ」
それだけ、な訳が無い。無茶苦茶な能力だ。
「嫌なものは側に置いて置きたくないでしょう。だから、遠くに飛ばす」
「飛ばすって、一体どこに?」
「分からない。えいやって、飛ばしたから」
少年の能力を行使された者は無作為な地点に転移させられると言うことだろうか。それは、殆ど死と同義では無いだろうか。ナナは内心そう思った。
「だから、バチバが現れた時はびっくりしちゃった。それに、ライラも。すごい確率だよね」
「愛」
スーが言った。
「それは愛なのではないでしょうか?」
「うん、そうかも」
少年は嬉しそうに頷く。スーは少年を上手く手懐けていた。
「ところで、2人が若返っていたのは何故でしょうか?」
「時空を飛ぶ時、身体に蓄積された時間も吹き飛ばされたんじゃないかな。そっか、それで時空を飛ぶ為のエネルギーが変換されたから遠くに飛ばされなかったのかな」
少年は呟くと、納得したように頷く。
「私達の前から姿を消した方法について尋ねてもいいですか?」
「あれも、簡単だよ。狙いを定めて自分を飛ばしているだけ。移動に便利なんだ」
少年は本当に簡単だと思っているようで、あっさりとそう答える。最悪だ。自由に転移出来る能力、大都コーサカが都市規模の施設を造ってようやく実現した技術、それを個人でこなすことが出来るとは。
敢えて、仮定していないことがある。北には他にも少年と同じような能力を有するものがまだまだいるかもしれないという仮定だ。この仮定は意味がない。それが現実だとしたらあらゆる方策は無価値となるからだ。
だから、北は例えば、兵を転移させて攻撃を仕掛けると言ったことは出来ないと仮定、希望的観測と言った方が正確だが、に基づいてナナ達は思考している。あまりにも軽い口調はゾッとする。
ナナは、思考を巡らしながら、ふと違和感を覚える。少年の能力は時空を飛ばすことだけ、本当だろうか? 確か漠都トトッリでの出来事だ。スーが語っていた。少年は重力を操っているようだとそう語っていた。
「他にも隠している能力はありませんか。例えば、重力を操るとか」
スーも覚えていたようで尋ねた。もし、時空を飛ばす能力に加えて、重力をも操る魔術師なのだとしたら、少年は心底強い。
「それは応用です。時空を飛ばせば、時空は歪む。時空が歪めば、重力場が発生する」
何だか、よく分からない理屈を持ち出してきた。
「これは、本来の理屈とは逆だね。重力は時空を歪ませる、常識でしょう」
第51話参照




