第16話「スー:セイ」
別視点
徐々に微睡から目が覚めるような感覚をスーは覚えていた。しかし、まだ身体はまだ自由に動かない。身も心も何かに支配されてて酷く鈍感になっている。
……組合長がいる。そして、大勢の冒険者も。
「参りましたね。こんなに素早く行動を起こしてくるとは。人間を、冒険者を侮っていたかもしれない」
誰かが声を発した。何故か、スーは親近感を覚えた。今自分の中にいるのはこの声の主だ。そんなことをスーは思った。
「多勢に無勢。こんなにも簡単に劣勢に追いやられるとは思ってもいませんでした。積み上げてきたものが全て台無しです」
声の主は言っている内容に反して冷静沈着なようだ。
「どうも、人間について不勉強だったようですね。しかしちゃんと学んでいる部分もあります。あなた方はこちらを攻めきれない。こちらには人質がありますからね。更に救うべき人質は襲ってくる。あなた方はどう対処しますか?」
スーは自身が冒険者と戦っているのを他人事のように見る。スーは何か魔術を放っていて冒険者はジリジリと距離を詰めてくる。
スーは小さく欠伸をした。
「火でも放つか? 人質も死ぬことになりますが」
声の人物は何やら時間稼ぎをしている。スーはそう感じた。そういえばエハド様、いやエハドが地下に何かあるって言っていた。建物はもうない。でも、もしかしてまだ地面の下に何かある? スーは徐々に思考がクリアになっていくのを感じていた。
「段々、人が増えて来ていますね。怖い怖い」
スーは声の人物を認識する。エハドにお師匠様と呼ばれていたマントの人物である。いや、人間ではない。この乗っ取られているような実感、ネットワーク生物だろう。
「人質を傷つけないように気をつけてくれ。こちらには数の利がある」
組合長が声を張り上げた。
「残念、もっと急ぐべきでした。地下深くに逃げさせていただきます。エハドに種を設置してもらっていたので無事、根を張ることが出来ました。そこに自分自身の主体を移します」
「人の助けを借りたのか。小賢しいな」
組合長が答える。
「人の助けを借りなければ遅々として菌糸を広げることもままならない弱い生物でございますので。自分だけでは地下深くまで菌糸を伸ばすなんて夢のまた夢」
スーは指先がピクリと動く。目が覚めた。やるべきことは分かっていた。
指で空中に素早く陣を描く。それは、炎系統魔術の1つであり、ごく一般的な攻撃魔術である。まあ、ナナは使えないけれども。スーはそんなことを刹那に思う。〈火矢〉、無数の火の線がネットワーク生物の立つ地面の足元に飛んでいく。幸い、スーはネットワーク生物のすぐそばに配置されていたので何にも妨害されずに済んだ。
おそらくスーはネットワーク生物のお気に入りだったのだろう。
ネットワーク生物は恐らく驚いた顔をしたと思う。相変わらずマントで見えないけれど。
「何故、動ける!」
ネットワーク生物は言った。
スーはその問いかけを無視して、ネットワーク生物に対峙する。未だネットワーク生物の支配下にある他の人質は冒険者たちに任せる。
――スーは何故、今回の任務に選ばれたのだろうか。単に容姿が良かったからではない。むしろ、容姿は副作用である。白い肌、白い髪、白い瞳、スーは漂白されている。あらゆる害となるものは体内から少しずつ排斥され、スーは純白に保たれる。つまりは時間さえ稼げれば、媚薬の効果を無効化できるのだ。スーは世にも珍しき漂白体質であった。
「……何故、動けるのでしょうか?」
スーは答えない。もはやネットワーク生物の運命は明らかであった。スーは再び陣を素早く描く。
「お願いします。答えて下さい。知らないまま死ぬのは嫌だ」
スーはやはり答えなかった。
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