第159話「正しくない人」
スーがバチバを連れて来た。そばにいる少女は報告を受けていたもう1人の雷組の生き残りだろうか。2人は目隠しをしている。
「こちらです」
スーは2人の目隠しを外した。少女は不安げな表情を浮かべていた。
「私達をこんな所へ連れて来て、どうするつもりですか」
それはナナも聞きたかった。バチバを呼んでくると宣言したかと思えば、困惑するナナ達を尻目に、バチバを呼び出しに言った。
「申し上げた通りです。会って欲しい人がいます」
「誰に会えって言うんだ?」
「あなた方もよく知る人です。こちらにいらして下さい」
お遣いの少年も静かにしていた。誰と対面させられようとしているのかよく分かっていないみたいだ。バチバがスーの方に歩み寄る。そして、牢の前に来る。スーが何を試みようとしているのかはよく分からないが、何らかの反応は生じることだろう。
「……ライラは帰らせて来れ」
「そこに誰がいるの?」
「何をさせたいのかは知らないが、俺だけで十分だろう」
バチバは少女、ライラの言葉を無視して言った。バチバは今、何を考えているのだろう。心底、穏やかではない筈だ。口調も少し荒ぶっていた。だが、冷静さは保っている。
「ライラさんが決めて下さい」
スーは答える。
「リーダー、1人で厄介事を背負い込もうとしていますか?」
ライラはバチバに近づくと、強く抱きしめた。牢の方には目もくれない。敢えて見ないようにしているのかもしれない。
「私じゃ頼りないですか?」
「そんなことは無い」
「じゃあ、2人で向き合いましょう」
バチバとライラは、少年と対面した。ライラの胸が大きく膨らむ。ナナは怒声を聞いた気がした。だが、結局、声は発せられることなく胸は萎む。
「何で、こいつがここにいるんだ?」
「そんなことは些細なことです。それよりもあなた方が何を思うかが重要です」
「殺してやりたい」
「僕を殺したいの?」
「当たり前だろう」
「何で?」
会話はチグハグだった。どちらかが間違っている。敢えてどちらかと特定するのならば、お遣いの少年の方が。
「バチバさん、お願いがあるのです。少年を許してくれませんか」
スーが言葉を切り出した。随分無茶振りである。
「何を、言って、いるんだ」
「復讐なんて意味がないでしょう」
「充足なんて求めていない。だが、過去は精算できる」
「そう言う事ではなく、もう1度殺したでしょう。――だから、許してやってくれませんか」
ライラがスーに近づいた。そして平手打ちをする。だが、スーは微笑みを浮かべた。




