第158話「バチバチ」
「リーダー!」
バチバは顔を上げる。何だか、見覚えのある顔だ。誰だろう。
バチバの周囲では様々なことが起こっていた。どうでもいいことだったが。バチバは冒険者組合の職員に案内されてここまでやって来た。ここまでの旅路で一緒に来た奴らはいつの間にかいなくなっていた。どこに行ったのだろう。
「リーダー、無事で良かった」
少女の表情には何か心動かされるものがある。
「ライラか?」
見ず知らずの少女の顔だった。だが、どこか面影がある。自分と同じように若年化していれば、このような顔になっているかもしれない。
「ライラです」
目の前にいるのはバチバがリーダを務める、かつて務めていた冒険者の一団、雷組、そのメンバーのライラであった。
「もしかして、他のみんなも――」
バチバが言いかけるとライラは首を横に振った。
「見つかっていません。申し訳ありません」
バチバは口を歪める。酷なことを言葉にさせてしまった。
「生きていて良かった」
バチバはライラを抱き寄せる。身体は軽く、華奢だ。仲間と共に積み重ねてきた研鑽の期間は失われてしまったようだった。
「ありがとう、生きていてくれて。俺は今まで死んでいた。だけど、ようやく現実に戻って来れた」
冒険者をやっているのだから、死は覚悟していた。自分の死も仲間の死も。だが、自身の心は案外、脆弱だったのだろうか。仲間を失っていたことを思い出した時、バチバは押し潰されそうになった。だから復讐を誓った。
だが結局、1度復讐を果たしたと思って、相手が復活した時、全てがどうでも良くなってしまった。もう、どうやって心を保てばいいのかも分からなくなった。
「私も心が目覚めたような気分です。でも、希望も捨てられなくなっちゃいました。なんだか、みんながある日ひょっこりと戻って来るような気がしてしまうんです」
バチバはライラから手を離す。もし、事前に一言でも自分の無事をライラに伝えることが出来ていたのならば、もしくはライラの無事を知ることが出来ていたのならば、俺たちは余計な希望を持たずに済んだ筈だ。バチバは考える。時間差で起こった奇跡は、バチバ達に希望を抱かせる。
「……希望を捨てる必要は無い。仲間がいつでも帰って来れるようにもう一度雷組を結成しよう。そして仲間を待ち続けよう」
「そうですね。新生雷組を始めましょう」
新しい雷組には新しい仲間が入ってくる筈だ。自分達はその中で過去を思いながらも未来へ進んでいく。気持ちを真っ新に出来た訳ではない。だが、何だか気合が入った気がする。
「少々、よろしいですか?」
突然、バチバは声を掛けられる。
「会って欲しい方がいます。――誤解のないように申し上げますとあなたの仲間ではありませんが」
見知った顔だった。しばらく旅を共にした女、スーだった。




