第154話「革命」
「あ、組合長。副議長の姿を確認しましたー」
「スーとナナは?」
「一緒です。ただ、1つ問題があります。サカイ村と接触したようなのですが、トラブルに発展してしまったようです」
「分かった。しばらく様子見だ。本当に危なくなったら介入して事態の解決を図れ」
「分かりましたー」
「頼んだぞ、イチチ」
イチチは、冒険者組合エージェントの一員である。そして、おそらく最も従順なメンバーであった。皆、割と好き勝手動く中、イチチには安心して仕事を任せられると組合長は感じていた。勿論、他のメンバーも任務は確実にこなすが。
とは言え、イチチにも懸念材料はある。イチチは温和な性格だった。それは任務遂行において有利に働くような気質とは言えない。寧ろ、足を引っ張るような要素になり得る。
「副議長達は、サカイ村から出立したようです」
「解放されたのか?」
「いえ、逃走です。もう少しで介入するところでしたが、何とか見送ることが出来ました」
こういう点だ。イチチに不安を覚えるのは。出立と逃走では受ける印象が異なる。無意識だろうか。イチチは温和な表現をしようとする。
「そうか。狙い目は最も気が緩む到着直前だ。副議長を捕まえろ」
副議長には力がある。カリスマとも呼べる力。現状がひっくり返ってしまうのは避けたい。だから捕らえさせる。
――現在、南都ナーラを統治するのは都議会では無い。冒険者組合である。その事実を副議長に知られてはならなかった。だからこそ、スーとナナ相手にも情報統制を行った。
「組合長、相談があります」
「どうしたのだ」
「馬車がサカイ村の手に落ちてしまったようです」
「馬車とは副議長達が乗っていたものか?」
「そう、例の馬の馬車です」
「では、取り返してくれ」
「分かりましたー」
「その後、副議長を捕まえろ。早急に頼む」
組合長は嘆息する。
都議会は、町の完全な支配を目論んでいた。その為に、ネットワーク生物を町に持ち込んだ。その上で、それに対処した冒険者組合に失態という烙印を押した。強かである。
違和感に気が付いたのはあまりにも情報が筒抜けだったことである。都議会は裏のそのまた裏、実に狡猾に愛の園を操り、実験を行なっていた。都議会の掌の上だったのならば情報が知られているのは当たり前である。
あの時の実験は失敗だったがデータは収集出来たのだろう。食環境の改善という健全に見える方策で、都議会はネットワーク生物を広めるためのシステムを構築しようとした。簡単に言えば、都民が口にするものに混ぜるということだ。
キノコ料理が話題になっていたがあれも布石だったのだ。美味しい料理の背後に蠢く参謀術数にはゾッとする。都議会には二枚舌の化け物が巣食っている。
だから、だからこそ冒険者組合は革命を起こした。




