第153話「終わりの前」
「お守り、魔術的な効果を打ち消す道具です。試作品のようなものなのでこれ以上は詳しく話せません」
スーが付け加えるように言う。当然、それで納得させられるとはスーも思っていないだろう。だが、これ以上は語れない。耳飾りが何らかの機能を持っていると露見するのさえ本来、避けねばならないことだった。
あの場を乗り切る為には致し方無かったとは言え、危ない橋を渡ることになった。もし、仲間を切り捨てることが出来たのならば、秘密が露見するリスクを負うことも無かった。冒険者組合エージェントとして、相応しくあろうとしても、時折、我が出てしまう。自分は弱いのだとナナは思う。
「そうですか」
バンカは答える。
「それよりもあなたが何故、支配から逃れることが出来たのか、お聞きしたいです」
「――耐性、ができたようです。私が魔力を取り込むことが出来る特殊体質なのはご存知でしょう? あの支配も魔力によって引き起こされたものです」
スーの漂白体質のようなものだろうか。
「ところで、1つ気づいたことがございます」
バンカは、あまり詮索されたくないようで話題を変える。好都合かもしれない。互いに隠し事がある状態であれば、追及を避けられる。
「あの宝玉には非常に濃密な魔力が込められていました。モモ砂漠の砂と同じようなもの、魔力の結晶です」
「あれが?」
「ええ、砂漠とは異なるのでまた、性質は異なるようですが」
「難しい話をしているな。そういうのは無事戻れたら考えればいいんじゃないか」
ダンが言った。
「そうですね。では、食事にでもしましょうか」
バンカは収納魔術で保管していた食料を取り出した。久しぶりの食事だ。昨日は食事の余裕も無かった。そうして、食事を終えると見張りの分担を決めて眠りにつく。初めはナナが見張りだ。皆が横になっている地面から少し離れて座る。すると、スーが隣りに座った。
「寝れなくて」
「そう。ねえ、スー、あの時、切り捨てればよかったのかな?」
「ナナは、そんなことを思っていないでしょ。ナナは優しいから。だから私は迷わず動いたんだよ。ナナは仲間の無事を何よりも大事にするから」
「ありがとう、スー」
「私はナナを支えるお姉さんになるって決めているから」
お姉さん、スーは度々その言葉を口にする。
「町に到着したらどうしよう。組合長に会うの憂鬱」
「私も」
ナナはスーと顔を見合わせて笑う。長い旅路も間も無く終わる。まあ、そうしたら次の任務に取り掛かることになるだろうが、一区切りつく。色々あった。最後まで慌ただしかったが、南都ナーラに着けば終わりなのだ。
「じゃあ、寝るね。また見張り交代の時に」
スーが側を離れる。ナナは空を仰いだ。まだ感無量になるには早い。




