第152話「追及」
薄明、目を覚ます。何か、近づいている。追っ手だ。
「起きて下さい」
見張りをしていたバンカが声を張り上げた。皆、すぐに飛び起きる。まあ、何も無い所での野宿、元々、それ程熟睡も出来ていなかったことだろう。
「執念深いな」
ダンが言った。本当にしつこい。追いつかれる前に逃げておけばよかったと思ってしまうが、昨夜は疲労が蓄積していた。仕方ないと割り切るしか無いだろう。
「昨日みたいに逃げるのか? 抗戦するという手もあるが」
ダンが尋ねる。
「ええ、逃げましょう」
そして、早朝からナナ達は、逃走を続けることになった。上空に飛ばされては落下するを繰り返す。ナナは上空からチラと追っ手を確認した。馬で追いかけて来ている。追っ手はつかつ離れず付いてくる。更に、情報伝達がなされているのか、段々と数が増えて来た。
「ああ、足元がふわふわする。他に方法は無いのか? いちいち着地しなくてはいけないのか?」
ダンが駄目で元々といった体で尋ねる。
「あ、ああ。試してみましょう」
何と、バンカはそんなことを言い出した。そう言えばバンカは熱くなりやすい性格であった。そしてそう言う性格の場合、視野狭窄に陥ることも多いだろう。
ナナ達は空中をカクカクと進んで行くようになった。ナナ達を覆う透明な球体が落下する前に何度も弾かれているようなイメージだ。空を流れる雲や飛ぶ鳥とは異なる異質な移動の仕方だった。
「あの馬車は俺達が乗って来たものだな」
アラカが言った。少しずつ離れて行く後方、確かに馬車が見える。それが自分達が乗って来たものであるかは断言出来なかったが。
「今は、逃げましょう」
バンカは心苦しげに言った。ナナは心の中で別れを告げる。今、逃げるのならばあの馬に会うことはもう無いだろう。
こうして逃走は成功した。再び、野宿をする。例え、追っ手がしつこかったとしてもすぐには追いつけないだろう。皆、酷く疲労が溜まっていた。南都ナーラには後、半日もせずにつくが、休息は取らなければならない。ただ、バンカの思惑はそれだけでは無いようだった。何やら思案している。
「しかし、サカイ村からここまで大分、近いんだな。行きはもっと遠いイメージだったが」
「長旅ですので馬をゆっくり走らせていましたから。――まあ、それは兎も角、そこのお2人に尋ねなければなりません。あなた方の身につけている耳飾りは一体、何なのですか」
ナナは言葉に詰まる。スーがダンに貸していたものは既に取り返していた。返してもらう時も横で見ていたバンカは何か言いたげだったが遂に尋ねて来た。
「お守りです」
スーが答えた。バンカは尚、何か言いたげな顔をしていた。




