第151話「水切り」
指輪と耳飾り、それは冒険者組合から支給されている道具である。指輪から耳飾りへ、空間的な隔たりを超えて、言葉を伝える夢のような道具だ。
社会に変革をもたらし得るかもしれない技術が一体、どこから出現したのかは分からない。とは言え、これまでそれを深く追求する必要は無かった。だが、唐突に考える必要性が出てきた。
ナナは検討する。指輪と耳飾りの材料、それと目の前の宝玉が同質のものだとする推測は妥当だろう。宝玉が発する力が耳飾りと共鳴して、音に変換された。
「あれ、指輪も同じ材料?」
「気づかない? 細かく振動している」
確かに指に意識を向けると震えを感じられた。力と呼応しているように思われる。
「もしかして、宝玉を指輪と耳飾りみたいに使うことも出来るのかな」
「――と言うより、頭に直接、言葉を送り込んでいるみたいじゃない? そうする事で脳を支配して、操っている。――副議長達だけじゃなくて村人全員」
村人達は相変わらず、襲って来る気配も無い。確かに、操られているようにも思える。しかし、そうなると誰が操っているのか。可能性として、高そうなのは目の前にいる村人だけれども。
「そうですか、ダイシンリン様。我々が自ら手を下すことをお許しくださるのですね」
村人が一斉に立ち上がった。そして距離を詰めて来る。
「なるべく身体を寄せ合って下さい」
バンカが言った。ナナ達は指示に従う。
「飛びます」
炎が射出されるその反作用によって、ナナ達は空中に放り出された。そして、村の外れに着地する。
「あれ、抵抗が弱くなったかも」
抱えるバチバの動きが弱まった気がする。
「……もう一度飛びます」
水面を跳ねる石になったような気分だった。ナナ達は、何度も飛んでは落ちを繰り返して、森の周縁を進んで行く。
「この辺りで一度休憩しましょう」
村からある程度距離を取ったところでバンカは止まった。
「とんでもない移動法だな」
ダンが呟いた。ナナとスーは、大都コーサカでも一度、体験したが、こうも連続すると体力を消耗する。
「何とか、窮地を脱したようですね」
副議長が言った。
「副議長様、ご無事のようですね」
バンカは、副議長から手を離すと、恭しくお辞儀をした。
「俺も、離してくれ。強く抱え過ぎだ」
「ああ、すまん」
アラカはダンの拘束から解放されると膝から崩れ落ちるようにして、地面に倒れ込み、嘆息した。ナナもバチバから手を離す。バチバはぼんやりとしていて反応は無い。だが操られている訳では無さそうだ。
「さて――」
バンカはナナとスーを見る。何か言いたげだった。だが、すぐに視線を逸らす。
「寝ましょうか」
バンカは言った。




