第150話「材料」
事態は時折、膠着する。しかし、それは大抵、一瞬の秩序に過ぎない。膠着状態はほんのちょっとした変化で脆く崩れ去る。
「副議長様、ご無事でしたか?」
バンカが姿を現した。そして器用に蔓だけを焼き切った。相変わらず桁外れの魔術である。気絶している4人はバタリと倒れる。
「副議長様!」
バンカが取り乱す。いや、初めから冷静では無かったか。おそらく副議長が拘束されているのを見て、気を失っているのも気づかずに蔓を燃やしたのだ。
「……繋がりが切れたのか。適合しそうだったのに残念だ」
村人が呟く。
「だが、こちらは上手く繋がったようだ」
副議長達が立ち上がった。だが、様子がおかしい。操られているようだ。腕がダラリと弛緩している。――またなのか。皆、使いたがるものなのか。まあ、使いこなせればこの上なく便利だろう。
「ネットワーク生物か?」
ナナは尋ねる。
「何を言っているんだ?」
ナナは尋ね返されてしまう。白を切っているのか。本当に何も知らないのか。
「全てはダイシンリン様のお力添えだ」
副議長達が自らの首を絞めようとする。
「やはりダイシンリン様は町の者の死を望んでいるようだな」
ナナ達は慌てて手を引き剥がそうとする。バチバの手は何とか外せた。ナナはバチバの腕を後ろに回すと脇で押さえ込む。副議長はバンカが守った。
だが問題はアラカとダンである。兵士なだけあって力が強く自ら首を締め付ける手を振り解けそうに無い。そもそも人手が足りない。ナナはそう考えたが、スーは落ち着いてダンに近づく。そして、スーは耳飾りを片方外すとダンにつけた。
「あれ、俺は何をしていたんだ?」
「ダン、アラカが操られている」
ダンは素早く状況を把握したようで、アラカの身体をがっちり固めて身動き取れないようにする。力自慢の本領発揮だ。流石である。ナナは心中で賛辞を呟く。そんな余裕があったのは一連の流れで村人達がナナ達に手を出してこなかったからである。
「何故助かる。ダイシンリン様、一体、どのようにお考えなのですか」
スーがナナの側に近づいて来る。
「耳飾りの効能が証明されたね。やはり耳飾りが操ろうとする力を妨害しているみたい」
片方では効能が不十分かもしれない、そう言う想像はしなかったのだろうか。問い質したくなる気持ちを抑える。
「ねえ、ナナ、ダイシンリン様って何だと思う?」
「まだ、分からない」
「実体としては?」
「……そこの宝玉じゃないかな」
そして、宝玉とはすなわち寄生しているネットワーク生物なのではないかと考えた。だが、何か違うかもしれない。
「うん、私もそう思う。そして考えた。指輪、そして耳飾りの材料はそこの宝玉と同じものなのではないかって」
スーは言った。




