第15話「攻防」
「戻りました」
ナナは言った。
「そうか。では、マスクを渡しておこう。一応、ネットワーク生物に対する防御になる」
組合長は答える。ナナは顔の下半分を覆うマスクを身に付けた。少し息苦しい。
「今後は冒険者を動員して地道に滅菌作業を進めていく。そして張り巡らされたネットワークを狭めて本体を追い込む。組合の評判は下がることになるが致し方あるまい」
実の所、冒険者組合エージェントとしての仕事は殆ど終わっていた。この後は一冒険者として、作業を進めていくだけである。
「幸い今回のネットワーク生物は熱に弱いことが判明している。適切な対処で排除出来るだろう」
「ボクにスーを探索させてくれませんか」
「手掛かりがないだろう」
「そうですが……」
ナナは冷静に努めようとしてもいてもたってもいられなかった。その為、直談判に来たのだった。
「どうもお前は冷静ではないようだ。絶対は保証できないが、スーなら大丈夫、そうだろう?」
ナナは尚も言葉を発しようとしたが言い返す言葉が見つからなかった。
「ナナ、命令だ。休みなさい。冷静になるんだ」
「――分かりました」
ナナは冒険者組合の屋根裏、自室に戻るとベッドで横になる。焦燥を感じながらもナナは眠りに落ちた。
夕方近くなってナナは目を覚ます。苛立たしいまでに疲れは回復していた。
ナナはベッドに座ると考える。マント、今回現れたネットワーク生物はかなり狡猾である。媚薬という売り込み方がまず巧みだ。人の性欲は底知れない。マントは一気に勢力を拡大することになった。その上、自身の弱点である火を用いてまで、証拠の完全抹消を謀ってきた。並大抵の胆力ではない。結果としては今は、冒険者組合がマントを追い詰めている筈だ。しかし、何故だろう。そのような気が全くしない。
ナナは寝ている間に外していたマスクを再び着けると外に出る。一見、大きな異変が起こっているようには見えない。多少、町中に冒険者と思しき人が多く見られるくらいだ。けれどもまさに今、重大な攻防中なのである。
「ナナ、起きているか?」
組合長からの連絡である。
「はい、ちょうど起きたばかりです」
「そうか、本体を発見した。愛の園の拠点跡地に駆けつけてくれ。まあ、お前が来る頃には全て終わっているかもしれないがな」
確かに、今から駆けつけても日が暮れた後になるだろう。全ては終わった後かもしれない。
「スーは見つかったのですか?」
「ああ、ネットワーク生物はスーを含めて数人を操っている。中には一般人も含まれるのが厄介だ。その為苦戦する恐れがある」
ナナは組合長の言葉を聞きながら既に走り出していた。今すぐスーの元へ行けたらいいのに。ナナは走り続けた。
リアクションを、是非




