第148話「逃走」
外に出るとスーが〈火矢〉を放つ。建物に火がつく。陽動だ。スーはなるべく広範に燃え広がるように〈火矢〉の魔術を行使する。
「おい、建物が燃えているぞ」
「何があった?」
ナナ達は、こっそりとその場を離れる。そして足音がならないようにナナは〈シズカ〉を行使した。取り敢えずの所、村人達は火のついた建物に集まっているようだった。直にナナ達の探索を開始するだろう。それまでに逃げ出さなければならない。
とは言え、副議長を連れていると、そこまで速くは動けない。ナナは背後を確認する。
「もう消されているのか」
早い。やはり魔術に優れたエルフである。水系統に魔術で手早く消火したのだろう。大して時間稼ぎにもならなかった。だが僅かでも時間を稼げたのは僥倖だろう。
次は建物の中で倒れている村人への治癒魔術でも試みてほしい。死体には効果は無いが、諦めるまでの時間を稼げる。
ナナ達は、村の外を目指して進んで行く。もしかしたら本当に脱出出来るかもしれない。そんな希望を抱いた時異変が起こった。周囲に多数の芽が生えてきた。そして、それが急成長していく。ナナは〈ヒダネ〉で焼き払おうとしたが、効果は無い。スーの〈火矢〉も意味が無かった。
芽は太く鞭のような蔓へと変化していきナナ達に襲い掛かる。ナナは咄嗟に回避するが、それ以外の皆は蔓に絡め取られてしまう。蔓はしなやかで丈夫らしく、この場で1番、力が強いであろうダンでも解くことが出来ずにいる。恐ろしい魔術だ。
蔓はナナを襲い続ける。ナナはそれを避け続けた。魔術を行使したであろう人物がこちらから距離をとって見ているのを発見する。たった1人だ。 油断なく近づいてくる気配は無い。だが、ナナにとっては関係無い。ナナは速い、何よりも。ナナは村人に接近するとまた、首を折った。蔓が解かれる。
「急ごう」
ダンはただ一言そう言った。余計な言葉は口にしない。礼の言葉も口にしなかった。ナナにも何となくその気持ちは理解出来る。お礼なんて口にしたら逃げ出せる確率が減ってしまいそうな気がした。
だが、そんな験担ぎ意味のないことであった。村人達に囲まれている。また、蔓が生えてくる。ナナ以外は捕まった。そして大量の蔓は壁のようにナナを覆った。そして、徐々に蔓の壁は狭まり、ナナを絡め取った。身動きが取れない。
「……連行する」
巻きついた蔓はナナたちを持ち上げると移動していく。
「死ぬ前の時間を与えたのが間違えだったな。初めから一切、身動きを出来なくしていれば良かった」




