第147話「みんなで」
「ナナ。ナナ1人だけだったら多分逃げられる」
スーが囁く。
「逃げ出したところでその後にスー達を助け出せる算段が無ければ意味が無いない」
「……ナナはそう答えると思った」
スーは逃げて欲しいのだろう。だが、それでも1人だけ逃げるとは言えなかった。
「おい、今の話、ナナは逃げ出すことが出来るのか?」
ダンが訪ねてくる。
「うん、逃げ足には自信があるからね。全員を連れては無理だけれど」
「全員は無理か。なら後1人だけならどうだ」
「後1人、誰のこと?」
「少年だ。――副議長様、申し訳ありません」
「出来ないことも無いかもしれない。でも本人がその気でなければ絶対に無理だ」
ナナは暗い牢の隅に座り込む、暗闇よりも尚黒い影を見る。バチバだ。
「少年、希望を捨てるな」
アラカが言った。
「希望、希望? みんな死んだのに? みんな死ぬのに?」
ナナは何か口にしようと思った。しかし何も話すことが出来なかった。その場にいる全員が語るべき言葉も思いつかず、言葉を飲み込んだのが分かる。沈黙の中、暗がりに閉じ込められて、気分が悪くなってきた。
「ボク達はどうするべきでしょうか?」
「分かりません、真っ暗ですからね」
副議長が思いがけず反応した。真っ暗、それは単純に周囲が暗いという話だろうか。それとも未来がお先真っ暗ということだろうか。
「仕方が無い。精一杯、抵抗することにしよう」
ダンが溜息混じりに言った。
「牢が開けられた瞬間がチャンスだ。全員で暴れる。そして逃走を試みる。全員で逃げられるように頑張ってみようじゃないか」
少し、格好つけた発言だ。全員で逃げられる可能性は無に等しい。ダンも承知の上だろう。その上で、こんな発言をするとは大分、気取っている。
「そうだね、仲間全員で逃げよう」
そうしてナナ達は牢が開けられる瞬間を虎視眈々と待った。ダイシンリンとやらの力を使うと言っていた。おそらくそのタイミングでナナ達はまた別の場所で移動させられることになる。
牢の天井付近の扉が開けられる。村人がこちらを覗き込んでいる。ナナは瞬時に飛びかかった。止まれない速度、ナナは手早く首をへし折った。その場にいたのは3人、ナナは全員の首を折った。
「ナナは、すごいんだな」
アラカが牢から出てきながら言った。ただ、褒め言葉でありながらもアラカ自身を貶しているようにも聞こえる。アラカはバチバの手を握っていた。
「さて、村からの脱出を目指そう」
ダンの先導で建物を出る。日はとうに暮れ、夜が訪れていた。




