第146話「ダイシンリン」
「解放して下さいませんか。そうしたらすぐにでも出て行きます」
「お前たちは生贄だ。最近は町の者もあまり森や村の付近に近づかなくなったが、未来永劫その状態が永続するように、一切、町の人間を近づかせないようにお前たちは見せしめとする」
これは中々に追い詰められた状況だ。エルフは身体能力に長け、魔術の才に優れている者も多い。そんなエルフを大勢相手にするのは困難であった。
対多数で、絶対的な力を持つバンカは気絶している。そもそも如何にしてバンカを気絶させたのかを解明しなければならない。
力量を超えている。だが、幸いにして助けを呼べばいい。南都はそう遠く無い。指輪も耳飾りも外されていない。手足も拘束されているが腕はある程度、動かせる。隙を見て連絡すればよかった。今すぐ殺されなければだが。
「私たちを殺すつもりですか?」
副議長が尋ねた。
「その通りだ。だが、今すぐには殺さない。ダイシンリン様の力をお借りする」
「ダイシンリン様とはどなたですか?」
「森をお守りする悪魔、超常のお方のことです。そして、ダイシンリン様の力が最も高まる時間にお前たちを殺す」
信仰、文化、実際の所、ボク達人間と共有できることも多い筈だ。それでもエルフは他者を排除する道を選んだのだ。――どうでもいいことだ。
ナナ達は牢に連行される。ついでに馬もどこかに運ばれていった。毛並みを褒める言葉が漏れ聞こえた。きっと大事にされることだろう。一方のナナたちは半地下に存在する暗い牢に案内された。互いの顔もよく見えず、ジメッとしている。
「手間のかかったいい部屋だな」
ダンが嫌味を呟いた。地面を掘って部屋を作っているのだからそりゃ労力はかけられていることだろう。アラカがつられて少し笑った。また、副議長は落ち着き払っていた。スーは言うまでも無い。
問題はバチバだ。死んだような目をしている。何もかもどうでも良くなっていそうな自暴自棄な目だ。旅の道中で復讐に駆られ、更には仇を失って擦り切れていた精神が少しずつ回復していたように見えたが、全て台無しである。
「何もするな。ただ信じる者に祈るといい」
牢は閉じられた。また、バンカとも引き離されている。初めからバンカが警戒すべき相手だと分かっていたのだろうか。バンカには特に注意が払われている気がする。
ナナは指輪に向けて囁きかける。バレるリスクがあるが致し方ない。だが、結果としてそんな心配は必要無かった。いくら呼び掛けても返事がこない。連絡が出来ない。それならば、指輪も耳飾りも見た目通りの装飾に過ぎなかった。
「何だ、ボソボソ呟いて」
ダンが尋ねる。
「ああ、何だか不安になっちゃって、自分を慰めていたんだ」
「そうか。じゃあ少しでも気を紛らわせる為、おしゃべりでもするか?」
「そのような場合ではないだろう。俺たちは危機的状況にあるんだ」
アラカが言う。危機的状況、その評価は間違いでもない。だが、まだ見積りが甘かったかもしれないとナナは思う。これはまさに絶体絶命だ。




