第144話「通過-禁止」
馬車はひたすらに駆けていく。古都ラクヨウや漠都トトッリでも滞在することなく手早く補給を済ませると通過していった。
ナナたちは淡々と任務をこなす。周囲に注意を払い、向かってくる獣を撃退する。何度か厄介な獣が襲ってきたが対処できない程では無かった。
「もうすぐサカイ村か」
ダンが呟いた。サカイ村、エルフの住まう村、とは言えゆっくりと滞在することは無いだろう。幸いにして備蓄もあるので、立ち寄る必要すら無い。ただ横を通りすぎるだけだ。
余裕があったのならば、交流を図ることも可能であった。むしろ副議長の立場から考えるのならば、南都ナーラの近隣に存在するサカイ村とは積極的に関わりを持っていきたかった筈だ。だが、今は一刻も早く帰らなければならない。
「だが、縁が無かったな」
ダンは残念そうに嘆息を漏らす。確かに縁が無いのかもしれない。行きも帰りも立ち寄れないとは。
馬車は村の横を通過しようとする。だが、出来なかった。村からこちらに矢が向けられる。それ自体には対処出来た。だが、馬が驚いて暴走する。これは奇妙なことだ。馬はバンカが御している限り、矢が射られた程度で暴走しない。
「バンカが――」
それは、おそらく副議長の叫び声であったと思う。そうして、馬車は村へと突っ込んで行った。
馬車は村人たちの手によって停止させられる。そしてナナたちは拘束させられる。状況が理解出来なかった。攻撃を受けて、馬が暴走して、村に突っ込んだ。そして今見れば、バンカが気を失っている。その上バンカは手枷足枷に加え、口、目も塞がれている。
ナナは周囲を見る。以前、ナナたちを援助してくれた村人、その顔を探した。しかし見当たらない。
「どういうおつもりですか?」
副議長が尋ねた。
「森が乱れている。お前たち人間のせいだ」
「あなた方も人間でしょう」
エルフとは森と共に生きる人々の名である。
「黙れ。我々を侮辱する気か」
「どのような意味でしょうか?」
副議長は冷静に尋ねる。縛られた状態ではあるが、落ち着き払っていた。
先程の発言をした村人は副議長をギロリと睨んだ。
「分からないのか?」
心底見下した目だ。
「我々は村に近づいてくる異物は如何なる理由があろうと徹底的に排除する。特に森を汚す町の人間は」
相容れないとナナは感じた。非常に距離感を感じる。相手が壁を作っている。集まっている村人全員がだ。1人の村人の言葉に皆が同調しているのが見てとれた。異なる意見を持つ者はこの場にいないだけか。それとも排除されたのか。後者ならば最悪だ。
「――何故ならば、我々はエルフ、エルフという名の生物であるからだ」




