第143話「強襲」
ドゥーは、北の上空にいた。この空を覆う人工生物は実にいい子である。作り物、でも紛い物では無いとドゥーは改めて思った。
「さて、連絡しなくては」
ドゥーは声に出して言う。少しばかり緊張していた。何せ、連絡相手は愛しのウマさんである。金髪で、大きな目、はっきりとした口元は笑顔はきっと可愛いのだろうなと想起させるが残念ながら、ドゥーはまだ、ウマさんの笑顔を拝んだことは無かった。
「ウマさん、聞こえる?」
ドゥーは指輪に呼びかける。
「ドゥー?」
「あれ、トレシュか、元気にしていたか」
耳飾りからはウマさんの妹、トレシュの声が聞こえてきた。
「うん、元気だよ」
トレシュはウマさんとは対比的によく笑う。
「……お姉ちゃんはちょっと今、忙しくてさ」
「そうか、それは残念。だが、任務は順調なようだね」
「うん、順調。あ、ちょっと待って」
耳飾り越しに何かを殴打するような鈍い音が聞こえた。
当然のことだが、ウマさんとトレシュも冒険者組合エージェントである。そしてただ今、任務に従事中であった。
「不測の事態は無いようだね」
あまり心配はしていなかった。ウマさんとトレシュのコンビは無類の強さを誇る。
――任務、北を強襲する任務は順調に進んでいるようだった。上空から重要そうな拠点を見つけて、潰していく。ただ、上手くいきすぎているような気もする。
今の任務は漠都トトッリ、より正確には漠都の宰相の助力があった。拠点の位置に、見張りが手薄になる時間、それらの情報は全て提供されていた。ドゥーは二重の確認だが今の所、裏切りも予想外も無いようだった。それが不気味だ。
「まあ、上手くいっているのならばいいか」
ドゥーは“空”を撫でる。このまま五都同盟が勝利する、それならばそれでいい。悲観的になる必要も無いのだ。ただでさえ、南都内でも問題は山積みなのだから外から課題を無理やり見つけ出してくる必要は無い。
「ドゥー、聞こえる?」
「ウマ、さん」
ウマさんから連絡が来た。
「さっきは連絡に出られなくてごめんなさい」
「大丈夫さ」
ドゥーは歯を見せて笑顔を浮かべる。
「そう」
笑顔は全く伝わらない。
「では、次行こう」
ドゥーは指示を出す。次の拠点の強襲も上手く行った。その次も。この後、混乱に乗じて兵士も送り込む手筈になっている。手堅く徹底的な戦い方である。ドゥーはこのような作戦を考えた者について考える。漠都トトッリの誰か。組合長みたいな人だろうか。老獪で知恵深い、それにおそらく未来予知の能力も持っている。
「まあ、いいか」
ドゥーは呟いた。




