第142話「ふるさと」
「一体、何を話し合っているんだろうな」
ダンが言った。
翌朝、食事を済ますと副議長とハッサクは2人だけで話し合いを始めた。護衛も部屋から締め出して完全に2人きりでの話し合いである。ナナたちは部屋から離れ、待機していた。勿論、山都の者たちも部屋から離れている。
盗聴することも出来るが、副議長もハッサクも勘が鋭い。ここで危険を冒すべきでは無いとナナは判断した。
「今後の動きについてだろうな。なるべく早く行動する必要がある」
アラカが答える。
ヨドゥヤはおそらく暫くは均衡状態が続くと読んでいたと思う。使者を解放して、北と大都の繋がりを各都市に伝えさせることで、それぞれの都市の動きを抑圧する意図があったのだろう。
だから、既に五都市が共同関係にあるのは予想外なことであるだろう。ならばその利点を活かして速攻で攻めるしか無い。とは言え、すぐに動けるのは山都陣営だけだ。こちらは南都まで戻る必要がある。いや、もしかしたら南都も既に動いているのか。情報の隔絶があるのがもどかしい。
「詮索しても詮
バンカが言った。
「まあ、そうだろうが」
ダンは答える。そして場が静かになってしまった。副議長とハッサクの話し合いはまだ続いているようだ。皆、押し黙ったまま時間が経過していく。
それなりに時間が経った後に、スダチがやって来た。隣りにはバチバを連れている。バチバは、スダチに山都を案内してもらっていた。
「どうだった?」
アラカが尋ねた。
「みかん畑がいい眺めでした。斜面に木々が連なっていて。のどかで戦いが――。いえ、失言でした」
ナナは何となく続きの言葉が何か分かった。戦いが差し迫っているようには思えない。そんな所だろう。
「ユキノコの卵も見ました。交代で四六時中監視していて孵化しそうになったら親を呼ぶそうです。刷り込みをするんですね」
バチバは一見、楽しそうに語っている。本当に楽しんでいればいいなとナナは思った。
「そう言えば、ユキノコは卵も雪のように白いんです。単に白いのではなく青みがかった透き通るような白なんです」
「楽しんでくれて良かった。俺の自慢の故郷なんだ」
スダチが嬉しそうに言った。
「あんたらも来ればよかったのに」
「すまない。そう言う気分にはなれなくてな」
ダンが答えた。
「そうか、仕方が無いな。また機会があればその時は俺が案内してやる。う、あ、じいちゃん」
スダチの言葉に反応して部屋の方を見てみると、副議長とハッサクが部屋から出てきていた。
「さて、帰りましょう」
副議長は言った。
「おお、またの」
ハッサクが言う。
「今すぐでしょうか?」
バンカが尋ねた。
「ええ、早急に帰還いたしましょう」




