第140話「ダサい言葉」
「……五都同盟ですか」
ハッサクの語った事情に対して副議長が呟いた。六都同盟の失敗に先んじて、動いていた計画。そう先んじてである。その計画は漠都主導で動いていたようだが、漠都には未来予知、もしくはそれに類する能力を持つ者がいるのだと思われる。
そして、その者の力は、おそらく副議長を上回るだろうと思われる。まあ、副議長の能力は元々おまけみたいなものだが。
「ああ、それが儂らの選択だ」
ハッサクは酒を飲む。
「南都の都議会も同様の選択をとったのでしょうか」
「そう言うことだろうな。五都同盟は既に各都の代表ないしはその代理の承認を得て締結されとる」
「そうですか」
副議長もハッサクと同じように酒を飲む。
「全く戦争というのはつくづくダサい響きの言葉だ」
ハッサクが呟く。
「ええ、その通りですね」
副議長は頷く。
「儂らの目的は幸いにして勝つことでは無い。本当に幸いかは分からないがの。ただ負けぬようにしなければならない」
戦争において勝ち負けが目的になっていることは少ない。もちろん見かけ上、そのようになっていることもあるが、実際には副次的なことだ。
戦争の目的としては、資源、信仰、防衛など様々なものがある。今回の場合は積極的防衛と呼べばいいのだろうか。人工生物を差し向ける北を脅威と見なし、排除しようとする。その原因は大都が北に与したことにある。何せ、五都は北と大都に挟まれることになった。もはや沈黙している場合では無い。
一方で北の目的はおそらく信仰だろう。信じるものがある故に北は暴走している。ナナはそう感じた。とは言え、北の意向はまだまだ不透明である。何か、まだ含むものがあるのか。まさか、本当にただ信仰故なのだろうか。
そんなことを考えているとスーと若者たちの飲み比べが終わったようだ。――彼らも戦いに赴くのだろうか。皆がすっかり酩酊して倒れ込んでいる中、スーは顔色1つ変えずに平然としていた。
「すごいものですね」
バンカが呟いた。バンカもスーの様子が視界に入っていたようだ。
「まあね。スーはすごい」
スーが腰を上げるとナナたちの方に来て座り直す。
「スー、大丈夫だった?」
「うん、平気」
「一体何があったのさ? どうして飲み比べなんか」
「ふふ、勝負事に持ち込めば煩わしい会話をしなくて済むからね」
スーは無邪気に笑った。ナナは少しだけ若者たちを可哀想に思ったが首を振る。どうせくだらない言葉でもかけてスーに言い寄って来たのだろう。
「さて、お開きだ」
ハッサクが唐突に宣言した。倒れていた者も含めて皆が姿勢を正す。そして立ち上がるとゾロゾロと出て行った。ナナたち護衛と副議長だけがその場に残る。
「部屋に案内しよう」
ハッサクが言った。




