第14話「キノコの燃やし方」
冒険者とは何か。冒険者とは危険へと踏み入っていく者である。遍くこの世界を旅する者である。
冒険者組合によって壁の外に出ることを許可されている冒険者は、外の世界から様々な益を持ち帰る。曰く傷病を癒す回復薬、曰く翼を持ちたる馬、曰く宝玉の枝、冒険者の持ち帰った様々なものが町を発展させた。
しかし、外の世界は脅威である。人口と人間の活動領域は徐々に増加してきているとはいえ、今も尚、壁の外が危険な世界であることは変わりない。時として冒険者は害を町の中に持ち込んでしまうことがある。ネットワーク生物は過去に冒険者が持ち込んでしまった害の1つである。
菌で構成される部分は互いに蜘蛛の巣のように結ばれて全体を構成する。そして人を乗っ取ったり、地中で菌糸を伸ばしたりして更に自分自身を拡大させていく。ネットワーク生物は町を崩壊させる恐れのある危険生物に指定されている。
「……お話を聞かせて下さりありがとうございました」
媚薬キノコを惚れ惚れと眺める料理人にナナは言った。
「ああ、こちらこそ話が出来て楽しかったよ。今度、キノコ料理を食べに来なよ」
料理人は答える。ナナは箱の中と地面に散らばるキノコを見る。〈ヒダネ〉、ナナはキノコに発火させる。煙が出始める。
「お、おい何しているんだよ」
料理人は慌てて火を消しながら言った。
「キノコは全て処理させていただきます」
「そんな酷い」
「媚薬キノコは端末です。先程のマントが本体でしょうがそのキノコも奴の一部と言えます。キノコを身体の内部に取り込ませることで自分自身を拡大します」
それが媚薬の効果、中毒性及び、人を操る能力として表れていた。ナナ及び組合長の見解はそうである。
「いまいち理解できないが、燃やすことないだろうよ。ようは火を通して媚薬の効果を消せばいいんだろう」
料理人はキノコを掴むと薄くスライスして火を通す。そして肉やら野菜やらも加えて炒めていく。
「ほら、即席キノコ炒めだ」
あまり美味しそうな見た目ではない。しかしナナは空腹を感じた。そういえば大分、疲労が溜まっている。ナナは料理人に差し出されたキノコ炒めを一気に食べ切った。
「美味しかっただろう?」
料理人が訪ねてくる。
「ええ、美味しいですね」
ナナは考える。元手を絶たなければ結局の所、意味はない。とはいえ、端末を残しておくのは不安事項である。こんなに大量のキノコを残しておく必要はない。ナナは先程、マントにかけた油の残りをキノコに振りかけるとキノコを着火させる。
「おい、美味しいって言ったじゃないか」
「ええ、美味しかったです。だからこそ、あなたはこんなものに手を出さなくても美味しい料理が作れる筈です」
料理人は呆然とした顔で燃えていくキノコを見ていた。
「……お話聞かせて下さりありがとうございました」
ナナは料理人に礼を言うとその場を後にした。一旦、冒険者組合に戻るべきだろう。未だ、スーの行方は知れない。しかし、敵は把握した。ここは今一度冷静にならなければいけない。朝、多くの人が活動し始めていた。この人たちも守らなければならないのだ。ナナは足速に駆けていく。




