第137話「仲間。夢。」
「馬車に接近して来るものに注意しろ。野生のユキノコの群れが襲って来る可能性がある」
ナナたちは山地を進んでいた。山地を越えて反対側に山都イヨはある。
「ユキノコって山都の長が連れていた奴だよね。捕まえられるかな」
警告をするダンに対してバチバが無邪気に言った。演じているようには見えない。きっと実際に思ったことなのだと思う。冒険を楽しむというのがバチバ本来の気質であり、そうした気質の表れが今の発言なのだろう。
とは言え、仲間を失った悲しみや復讐心は未だ残っていることだろう。バチバの心の傷がいつか癒えることをナナは願った。
「いえ、成長したユキノコを従えることは難しそうです。卵の時から育てる必要があるとか」
アラカが説明をする。
「へえ、ユキノコって卵生なのか」
和気藹々とした空気が流れている。ナナは仲間としての一体感を覚えた。そして安堵感がある。
「もしかして、眠いのか?」
ダンが尋ねてきた。
「そんなことないよ」
ナナはそう言いながらも小さく欠伸をした。
「ある程度制御されているとは言え、揺れる馬車の上で睡魔を催すとはとんだ猛者だな」
アラカが揶揄ってくる。
「ナナ、寝てもいいよ。周囲への警戒は3人でも十分だ」
スーが言った。
「だから眠くないって」
眠気もコントロール出来なければ、冒険者組合エージェント失格である。だが、3人に言われたからであろうか。本当に眠気を感じてきた。
「じゃあ、ちょっと」
ナナは眠りに落ちた。そして夢を見る。
「――ナナ、僕たちは仲間だ。君の味方だ」
誰かが言った。
「でも、ボクは人でなしだ」
「ああ、前言っていたやつ? そんなのくだらない。馬鹿げてる」
別の誰かが言った。彼らはボクの仲間だ。ナナはそう確信している。心の底から彼らとの絆が信じられた。
家に閉じ込められていたボクは少しずつ家の外に出ることを許可されるようになった。外でのたれ死ねと言うことだろうか。確か母は同じような意味のことを口走っていた気がする。
だが、外に出られるようになったことは素直に嬉しかった何故なら、友達、仲間が出来たからである。仲間はナナのことを決して馬鹿にしなかった。大人が悪口を言っても仲間は悪口を言わなかった。ナナは仲間たちを自身の光だと信じた。
「大きくなったら一緒に街に出よう。一緒に働くんだ」
「簡単に言い過ぎ。まずは資金を貯めなくちゃ」
「お、流石だな。将来は会計担当だ」
あの時は未来に胸を躍らせていた。だが、ナナはこの後、どうなるかを知っている。これは夢だから。




