第136話「帰り支度」
真っ先に出立の準備を終えたのは、新都カバネクラのサガミたちであった。ほぼ同時に古都ラクヨウの司書官も支度が整ったようであった。続いて、漠都トトッリの軍師も準備が出来る。ナナたちは三都市の使者たちを見送った。
「副議長様、我々はまだ出立しないのですか?」
アラカが尋ねた。実の所南都の使者及び護衛は既に集まっている。勿論、バチバもいた。南都も出立の準備は出来ているのだ。
「もう少し待機していて下さい」
「かしこまりました」
しばらくすると、山都の長ハッサクがやって来た。
「お、まだおったのか」
ハッサクは少し酔っ払っているようだった。食事も酒も大いに堪能したのだろう。この状況において驚くべくことである。だがハッサクは破天荒かつ常識外れなのだ。とやかくか考えても仕方が無いだろう。
「何か、お話ししたいことがおありのようでしたので」
副議長が答えた。成程、その為に待機していたと言うことか。
「気づいておったか。まあ、気づいてもらわなければ困るがの」
ハッサクは陽気に笑った。酒気が混じった笑いだ。
「一体、何の用でしょうか?」
「うむ、1つ提案がある。山都に来ないか?」
副議長は考えを巡らしたようだ。早急に帰還するのと、山都に立ち寄るのとどちらの方が利があるのか。
「分かりました。山都イヨに訪問させていただきます」
副議長の真意は分からないが、都市間の関係の強化を重視したということだろうか。山都を訪ねることで、より密接な関係を築くことが出来ると思う。
「では、儂はお先に失礼する。また山都で」
ハッサクはユキノコのユキタに乗ると颯爽と去っていった。
「では、私たちも行きましょう」
大都の見送りは無かった。ただ、門を管理する兵士が事務的に送り出すだけだ。ナナたちは馬車に乗ると、壁際に向かう。そして、馬車は床に載せられるとゆっくりと下降していく。並々外れた機械技術なのである。もし、大都と共同出来ていれば、技術の共有も出来た筈だ。そして、技術は更なる成長が見込めた。だが、それは叶わなかった。
馬車は地面に到着した。
「久しぶりの地面だ」
ダンが感慨深げに言った。馬車は大都を離れて行く。
一区切りついた。六都同盟の締結は失敗に終わり、この先、どうなっていくのだろうか。大都が実質的に北に下ったことでその他の都市は北の勢力に挟まれる形になってしまった。厄介なことになった。
ひとまず大都は急いで何かことを起こそうとしている訳では無いようだ。だが、こちらは分からない。冒険者組合は既に何かしらやらかしている可能性がある。
そうやらかしている。何せ冒険者組合の行動は早い。




