第135話「愛を知る人たち」
――死者数百名、負傷者多数。人々は4人の天使を恐れ敬った。導の天使の言葉を借りるのならば愛を受け入れたと言うことになる。
そしてナナたち都の外の者はと言うと半ば軟禁状態で歓待を受けていた。今は食事でもてなされていた。側では天使も共に歓待を受けている。逃げるのは難しそうだ。ハシバは牢屋に入れられたようである。色々あったが、結局はヨドゥヤの望み通りになったようである。大都コーサカの平和は守られた。
ヨドゥヤがとった選択肢は大分、極端であった。何しろ、大都と北の領域は距離がある。無条件に北から平和を買い取ろうとしなくてもやりようはあった筈だ。だが、町が確実に存続する方法としてヨドゥヤはそれを選択した。相手も大規模な転移技術を有しているかもしれないことを危惧したのかもしれない。
諸々、考慮してもナナにとってはやはり受け入れ難かった。だが、そうだ、ヨドゥヤは町を愛しているのだろう。そして愛ゆえに憂いの一切を絶とうとしたのだろう。
「うん、美味しい。町が無くなったらこう言う食文化も失われてしまうよね」
食事を楽しみながら、スーが言った。確かに今、ここで暮らす人々が文化を作っているのだ。町が消えたら文化も消える。
「しかし少年も災難だな」
横でダン話しているのが聞こえる。この場において少年、バチバは唯の一般人である。冒険者という肩書きはあるが、巻き込まれた被害者であった。
「俺たちが絶対に守るからな」
「……自分の身は守れる」
「そうか、そうか。では一緒に頑張っていこう」
ダンはバチバを元気付けようとしているようだった。何しろ精神的な疲労が溜まりそうなことの連続である。バチバはやつれているように見えた。
バチバだけではない。他の皆もきっと疲れを溜め込んでいることだろう。ただし、1人だけ元気発剌な者がいる。ヨドゥヤだ。目論見が上手く言ったので当然だろう。
「皆さん、食事は楽しんどる?」
「食事は、美味い!」
ハッサクがヨドゥヤの威勢を削ぐように言った。ハッサクなりの抗議なのだろう。
「そら、よかった。まあ、それは兎も角、用もないのにいつまでも滞在してもらうんは申し訳無いからな、皆さんお帰りになってもらって結構やで」
「そ、それは本当か?」
漠都トトッリの軍師が尋ねる。
「嘘なんかつかん」
「……私たちは何の言伝を預かればよろしいのでしょう」
古都ラクヨウの司書官が言った。言伝か。確かに、元々の使者としてに役割を果たさせようとしているのかもしれない。まあ、六都同盟は消えたが。
「言伝? すんまへん、特にありませんなあ」
ヨドゥヤは答える。
「――では、帰らせていただきましょう」
新都カバネクラの執権補佐サガミが言った。そして南都の副議長は静観している。いつも通りである。
「うん、ええよ」
ヨドゥヤは何の捻りもなくサガミの言ったことを許諾した。




