第133話「教えて、天使さん!」
ヨドゥヤがやって来た。
「来たで」
覚悟が決まっている顔だとナナは思った。ナナはヨドゥヤの考えに賛同していない。だが、その覚悟の果てを見届けようと思った。
「単刀直入に言うわ。6割や。大都の財源の6割譲渡する。それで大都には攻めんことを保障して欲しいんや」
「ヨドゥヤ、何言っとるのか分かっているのか。それは実質的な支配権を一方的に北に渡すってことや」
確かに過半数の財源を掌握されたらそれは町を実効支配されているのと同等だろう。貨幣は町を支配する。それはどこでも同じだろう。貨幣の交換比率に差異はあるだろうが、それは北でも変わらないと思う。
「それは愛の教えを受け入れ、寄進するということでしょうか?」
「うちはそれでも構わへん。せやけど町の者が何を信じるかは自由にさせて欲しい」
「ふふ、よろしいでしょう。町の皆さんは自ら愛を選択するでしょうから。――浄の天使」
浄の天使と呼ばれた者が何をしたのか分からなかった。
「ん? 気のせいかの。何だか身体が軽くなった気がする」
ハッサクが言った。
「……浄の天使、浄化致しました」
浄の天使は囁くように言った。
「何をしたんや?」
ヨドゥヤが尋ねる。
「浄の天使はあらゆるものを浄化します。蔓延る悪意、身体に蓄積する不浄、そう言ったものを排除して清らかにするのです」
どこか抽象的な言い方だ。だが、蔓延ると言われると連想するものがある。
「……もしやそいつが、ネットワーク生物を消滅させたんか?」
同じことを考えたようでハシバが尋ねた。
「ふふ、何をおっしゃっているのか分かりません。ネットワーク生物とは何でしょう? 浄の天使は教えを阻む要因を排除しただけですよ。町の皆さんは支配されているようでしたので」
お遣いは基本的に隠しだてしないうようだ。先程から、いやに正直に語っている。自分達が有する能力を隠そうともしていない。
「罰の天使、導の天使、浄の天使ですか。もう1人はどなたですか?」
ナナは思い切って尋ねる。
「座の天使です。座の天使は今ここから過去と未来に広がった時空間に横断して存在しています」
「どう言うことや?」
「ふふ、あなた方は先程お見えになりましたね。座の天使は時空に囚われていないのです。存在そのものが神の御印であると言えます」
導の天使はハシバの方を見ながら言った。
「……もしかして時間停止が効かない言うことか?」
その様子を見て、ヨドゥヤは何かを察したように尋ねた。
「その通りです。過去、今、未来に同時に座している存在、それが座の天使ですから。――神の威光を理解して下さいましたか? さあ、皆さん愛を受け入れて下さい」




