第132話「天罰」
「さて、あなた方に神の罰を与えましょう」
先程から、お遣いはただ1人だけが言葉を発している。他の3人は身動きもせず黙していた。だが、突然、動く。
「――罰の天使と申します。あなた方は愛の為に罰を受けるのです」
お遣い、罰の天使は空を見上げた。上空には青空が広がっている。幸いと言うべきか、待機していた人工生物は、転移にはついて来ていない。不可視の何かが降り注いで来た。バンカが魔術で対抗する。バンカは炎の障壁を頭上に展開した。
「皆さん、お気をつけ下さい」
幸い、炎の障壁は正常に機能しているようだった。だが、鉄球の如く降り注ぐ見えない攻撃は、町に確実にダメージを与えている。
「ははは、これが罰言うんか」
ハシバが笑い始めた。場違いに快活な笑い声である。
「ええけど、総力戦になるで。あんたは六都市を同時に敵に回したんやから。相応の傷は負うてもらう」
恐ろしい。ナナは思った。ハシバは戦争をしたいのだ。しかも厄介なことにそこには勝つと言う意志が欠落しているように見える。
「滅茶苦茶しよるな。死ぬかと思ったで。お遣いさん、多分いるんやろ。件の少年との交渉はご破産になったけど、再挑戦。交渉に応じてくれへん?」
ヨドゥヤの声が響く。
「ふふ、あなただったのですか」
どうやら主に喋るお遣いは決まっているようだ。
「罰の天使、一度やめて下さい。ここはこの導の天使の領分でしょう」
そのお遣い、導の天使は言った。
「私が教え導きましょう。どうぞいらっしゃい」
導の天使は優しく言った。まるで、ヨドゥヤが目の前にいるような言い口だ。
「何や、何か頭の中に直接伝わって来た。ここにおる言うことか? 今行くで」
ナナは理解する。どうやらお遣いたちはそれぞれ、能力を有するようだ。――先程、時間停止を破った力、それがお遣いの特殊能力であるのならば、その1人を処分してしまえば、他の者も対処出来ることになる。あのお遣いの少年には時間停止は有効であったのだ。今回時間停止が効かなかったのはそう言う能力を持っていたからと推測することは可能である。勿論、これらは都合の良い妄想と考えることも可能である。
ナナは腕を摩る。スーは先程、腕を掴んでナナを留めたのだ。ならば、今は待つことにしよう。
スーはきっとまだ期待しているのだ。ヨドゥヤが平和的解決をすることを。もしかしたら、冒険者組合に対する背信になるのかもしれない。何せ、冒険者組合は北との対立も辞さない構えだ。しかし、具体的に何か言われた訳ではないのだ。ここはヨドゥヤの手腕に期待してもいいだろう。




