第131話「悪魔の力」
生物に人間性を付与する能力、あらゆるものを漂白する体質、冒険者組合エージェントは皆、何か秀でた特質を有している。
ナナもまた、特殊な能力を有していた。ナナは速く動くことが出来る。動きは単調になるが、その速さは脅威となり得る。
ナナは誰よりも速く動くことが出来る。ナナは単に速いのではない。絶対的に速いのだ。それはこの世の理と言っても言い。――ナナの速さは相対性を凌駕する。
4人程度ならば、抵抗を受けること無く首をへし折れる筈だ。人ならば、それで絶命する。そして、そうすることで任務を遂行出来るのならば、もしくは仲間を守れるのならば、ナナは迷い無く対象を殺す。
だが、問題は目の前の4人の首が急所たり得るのかと言うことだ。それでも実行せねばならない。ナナが一瞬の思考の内に1歩踏み出そうとすると、スーが手首を掴んだ。
ナナは立ち止まった。スーが手首を掴んだ。それは即ちスーが動くべきでは無いと判断したということだ。4人とハシバは互いに見つめあっている。両者ともどう動くかまだ決めかねているようだ。
「はあ、はあ」
その時、荒い息遣いが町中に突然、響き渡った。
「ハシバ、あんたの好きにはさせん。それともまだうちを試しているつもりなんか。せやったら全力でいくで」
それはヨドゥヤの声だった。
「……まさか。拘束した筈や」
ハシバは驚いたように言う。勿論、機械越しに声を発しているであろうヨドゥヤには届かない。周囲は光に包まれる。また、転移だ。とんぼ返り。元の場所に戻ろうとしているのであろう。
そして、光が消えた瞬間、爆音が聞こえた。
「ハシバ、吹っ飛ばしてやったで。魔術陣はもう使えない。町もまた再建せなあかんけど。最初からこうするべきやったんやな」
「何でや。何で、こんなに好き勝手出来る?」
ハシバは動揺している。ヨドゥヤはネットワーク生物による行動の制限がある。だからここまでの反抗はハシバにとって本当に予想外の出来事だったのだろう。何か、綻びが生まれ始めた。これはチャンスなのかもしれない。
「ふふ、愛の力ですね」
お遣いの1人がそう言った。そして相変わらず微笑みを浮かべている。お遣いたちは一連の流れでも一切の動揺を見せていなかった。
ヨドゥヤがネットワーク生物の影響から外れている様子なのはお遣いの能力の仕業と見るべきだろう。それを愛の力と呼んでいるのだ。決して愉快な気分では無かった。しかしナナは笑いたくなる。そっちが愛の力ならこっちは悪魔の力だ。




