第128話「無意味な計画」
「北と交渉と仰いましても人工生物を差し向けてくるような奴らですよ。今、この瞬間も攻撃を受けているのです。交渉など不可能でしょう。だからこそ私は――」
司書官の提案に対して軍師が真っ先に反対の言葉を述べる。
「北と交渉と言ったって一体何を交渉するというのだ。ただ攻撃をやめてくれと頼み込んでも意味はあるまい」
ハッサクも軍師に口添えする。
「六都同盟がございます」
「そのようなもの反故にされたも同然でしょう」
軍師は答える。
「それでも、ここに五都市から選出された代表が集まっているのです。意味は残っています」
「話が通じるとは思えない」
「それは話してみなければ分かりません」
司書官はしれっとそんなことを言う。
「……新都ならば、橋渡しが出来るかもしれません」
サガミが呟くように言った。
「結構なことだな。だが、どうやって北と接触する?」
ハッサクが尋ねる。
「向こうから来てくれるでしょう。何せ、ここは北の領域のようですから」
「そいつは最悪の出会いだな」
ハッサクは、笑った。
「ですが、北の領域を侵害しているのは大都コーサカです。私たちではございません。対話の余地はあるでしょう」
「……大都を切り捨てるのですか? 現状が大都の総意だとは思いませんが」
黙って話を聞いていた副議長が、口を挟んだ。
「私には古都ラクヨウを守るという使命がございます。局面に応じて、古都にとって利となる行動を選択する義務があるのです」
司書官は凛とした雰囲気を保ったまま言い切った。
司書官の言葉を穿って考えるのならば、大都を贄として自らの町の平和を守るということだろうか。少々、利己的かもしれないがハシバの自業自得だろう。ただ、自業自得ではあるが、巻き込むものがあまりにも大きい。
とは言え、現在の状態は、ハシバの望んだ通りの状態である筈だ。圧倒的な危機的状況。これをそう容易く覆せるとは思えない。そう危機である。何が起こるか分からない状況、事態は前触れなく急変した。
天井が吹き飛ばされた。ナナは上空に一際目立つ何かが浮かんでいるのを発見した。何せ光り輝いている。白く光り輝く何かが4つ。
バンカが必死に抗戦しているようだ。大規模魔術が光る何かに向けて次々と放たれて行くのが見てとれた。あらゆるものを燃やし尽くすような灼熱の魔術。町が大分荒れている。だが、何かには効いていない。
バンカは間違いなく最強である。南都最強。だが、もしかしたらこの北の領域でも最強とは限らないのかもしれなかった。




