第127話「相対性」
――石ころが1つある。小さな石ころだ。だが、その石ころを這う虫にとっては、石ころは非常に大きなものとして感じられるだろう。これは例え話である。つまり、あらゆる事柄は相対的であるということだ。絶対的な答えは存在しない。
ナナは考える。自分はどう動くべきなのか。立場によって取るべき行動は変わる。大都を守る為に尽力するのか、ハシバへの接触を図るのか。あるいは、逃走。取ることのできる選択肢は無数にある。
「幸い、私の護衛が人工生物を処理しておりますので今しばらく時間的余裕はありそうですが、いつまでも座して待つ訳にはいかないでしょう」
副議長が言った。
「では私たちも人工生物の対処に向かいます」
新都カバネクラの執権補佐サガミが言った。新都の一行はすぐにでも外に出て行こうと構えをとっている。
「お待ち下さい、執権補佐様。まずは事態を詳らかにする必要がございます」
古都ラクヨウの司書官がそれを制止した。漠都トトッリの軍師も司書官に賛同するように頷く。軍師は案外、冷静である。
「ハシバが何かしでかしたのだろうな」
山都の長ハッサクが言う。そう、しでかしてくれた。ナナたちは町が移動させられたと推測しているが、実際のところは分からない。
「まあ、何かと言ったが実は推測はついとる。ここは北の領地なのではないか」
「――何を根拠にそのようなことを?」
軍師が尋ねる。
「先程、外に出てみたんだが、今朝方と比べちょいと気温が下がったようでな。気温が下がるような天気でもないのに奇妙なことだ。その上、大量に現れた人工生物、儂は確信した。ここは北の領地だと」
「成程」
「それにチラと空が垣間見えた時に確認したのだが、太陽の位置も変わっているようだった。時間経過を考慮してもあり得ぬ程にな」
ハッサクは実に抜け目ない。
「では何故、大都の議長様は都を転移させたのだとお考えですか?」
司書官が尋ねる。
「分からんな」
ハッサクは即答した。
「では、皆様方はどうでしょう?」
誰も答えなかった。
「……実は私も見当もつきません。議長様は私たちとは大きく異なる行動指針をお持ちなのでしょう。ですので、1つ提案がございます」
司書官は段取りがしてあったように話す。もしかしたら、司書官もまた、何が起こったのかを既に推測していたのかもしれない。
「行動指針が異なる以上、議長様に交渉したところで意味がありません。大都の副議長様は味方になってくれるかもしれませんが、議長様の手中でしょう。ですから、私たちの交渉相手は大都ではございません」
司書官は一旦呼吸をすると言った。
「――私たちの交渉相手は北です。北と直接交渉をして、事態の解決を図りましょう」




