第126話「膠着」
バンカは次々と襲いくる人工生物を撃退していた。延々と奇妙な人工生物たちを燃やしている。
バンカは魔力を取り込み、力とする事が出来る。魔力、人の身には有害となり得る混沌の力、それは濃度の差はあれど、普遍的に存在するものだ。存在する魔力を制御しつつ、体内に取り込むことで、バンカは大規模な魔術を次々と放つことが出来る。副議長が以前語っていたことだ。
バンカは確実に人工生物を処分している。しかし、町はダメージを蓄積していた。それは他ならぬバンカの手によってである。火と落下する死体、それに撃ち漏らしも僅かながらいた。
大都コーサカの兵士たちも応戦しているようだが、撃退は出来ていない。倒しても倒してもひっきりなしに来るのである。一見すると今は膠着状態のように見えるがふとした瞬間に一気に事態は悪化する恐れがある。
「バンカはいつまで戦えるのかな?」
スーが言った。バンカが倒れるまで、それまでに事態を解決しなければいけない。
「分からない。問題は魔力が枯渇することがあるのかっていうこと」
普遍的に存在する魔力、モモ砂漠などの特殊な状況下でなければ、通常、その存在を認識することはない。ただ、事実としてその実存が知られているのみである。
そして、魔力は基本的によく分からないものである。そんな力を消費したら、どこからか湧いてくるのか、空になるのか、ナナたちは知らなかった。何せ、魔力を消費するという現象をこれまで目の当たりにしたことが無かった。
突然、扉が開け放たれる。
「無事のようだな」
ダンだ。息が上がっている。急いで駆けつけてくれたようだ
「皆、六都同盟のメンバーとその付き人、護衛の安否は確認できた。――ハシバ……様とヨドゥヤ様の行方は分からないがな。まあ兎に角ナナとスーも無事で良かった」
「心配してくれて、ありがとう」
「当たり前だろう」
ダンの返事にそんな場合では無いと思いつつもナナは嬉しくなってしまう。
「皆、集まっている。ついて来てくれ。バンカだけは飛び出して行ったがな。俺たちは全力で副議長を守る必要がある」
「……分かった」
ナナは少し胸が苦しくなる。ナナとスーは冒険者組合エージェントとしての方針を考えていた。だからダンたちと合流することを考えていなかった。
ナナとスーはダンに先導されて、皆が集まる場所に向かった。
「怪我は無さそうだな。良かった」
開口一番アラカが言った。側ではバチバが佇んでいる。バチバも安堵したような表情を浮かべた。バチバは存外ナナとスーに親しみを感じていたのだろうか。
だが、お遣いの少年をドゥーに奪わせたことで、バチバが少年の姿から元の姿に戻る機会を自分が無くしてしまったのかもしれないとナナは思った。
「さて、皆様」
ナナたちの到着を確認して、副議長が口を開いた。
「これからの対処を考えていきましょう」
副議長はこの場のまとめ役になっているようだ。対処、どうやって事態を解決するのか、難しい問題である。




