第125話「魑魅魍魎が跋扈する」
何も変化は無いように思えた。窓から外を見渡しても何ら変化は感じられない。
「何も起こっていないの」
スーが戸惑ったように呟く。まさかハシバの目論見は失敗に終わったのだろうか。ナナは観察を続けながら、考える。ハシバはそもそも何をしようとしていたのだろうか。いや、何らかのことをしでかした筈なのだ。
「……何か物音がしない?」
スーが言った。ナナも耳をそば立てる。何か耳障りな音。羽音だ。虫が羽ばたくような音が大量にしている。そして空が翳った。
現れたのは生物の大群である。様々な姿のものがいた。例えば、巨大な人の頭部のようなもの、それが複数連なっている。頭部からは翼が生えている。
あるいは、巨大な円環、それが湾曲するように戦慄いている。又は、翼から生えた人。翼の生えた人ではない。巨大な翼に人の身体と思われる部分は殆ど侵食されてしまっていた。自然の生物ではない。北の人工生物だ。
「ハシバはこれを呼び寄せたの?」
タイミングからして、そう考えられた。しかし、突然、大量に一体どこから現れたのだろう。
「スー、どうしたの?」
スーは何か違和感を覚えているようだった。
「太陽がどの辺の高さにあったか覚えている?」
今は、空は覆われていて太陽は見えない。
「どういうこと?」
「急に太陽が高くなった気がしたの」
「……まさか」
違和感というのは大事だ。人は案外、鋭敏な認知機能を持っている。スーが覚えた違和感が事実だとするのならば、反対だったということになる。
「呼び寄せたのでは無く、こちらから移動したってこと?」
「そうかもしれない」
スーは答える。スーは即ち、大都コーサカという町全体が人工生物が多く集まる場所に移動させられたということを示唆していた。つまり、ここは北の領地の真っ只中なのかもしれない。
大量の人工生物たちは今のところ、上空で様子見をしている。既視感のある光景だ。ナナたちが空と呼ぶ人工生物もこのように静観していた。狙いを定めているのだ。しかし、あの時と比較すると大きく展開は省略された。バンカの仕業だろう。空で群がる人工生物たちが全て、燃やされた。家屋の一部にも火がつく。
そして燃え残った死骸の一部が落下してくる。なかなかの惨事である。それでも被害は最小限に抑えられた筈だ。バンカがいたら、大抵の謀略は無意味な気がしてきてしまう。だが、全ての場合においてそうではない。何せバンカは1人しか存在しない。
青空が見えたところに再び大量に人工生物がやってきて影を落とした。




