第124話「初めの1歩」
天下太平、世界の秩序を保つこと、それがハシバの目的である。豊かで栄えある世界、ハシバはそんな世界を望んでいた。しかし現状の世界には邪魔なものが存在する。壁、境界、くだらないしがらみが富を生み出す流れを堰き止めている。
全て、リセットするべきなのだ。大いなる再生の果てに平和は訪れる。
同盟は決して建前では無かった。間違いなくハシバの本心であった。もし、本当に共同出来たのならば、大願を成就することも可能だっただろう。だが、話し合って分かった。彼らは、一丸とはなれない。やがて離散することは目に見えていた。だからハシバは独りで望みを叶えることにした。
ハシバは思う。分かり合えないのならば、誰もが平等に傷を負えばいい。そうすればきっと1つになれる。混沌とした世の中で、それが正解であるとハシバは信じていた。ヨドゥヤは、町という場所に拘っているようだが、無意味なことだ。
現れたヨドゥヤは鬼気迫っていた。随分と不意を突かれたことだろう。北との交渉は上手くいかなかったのだろうか? 随分と色々あったようだが。
「お、ヨドゥヤ、そちらから出向いてくれるとは、おおきに」
何だか、愉快な気分である。
「……ハシバ」
ヨドゥヤは何か言いたげな表情を浮かべる。手には何も持って無かった。リモコン、置いてきてしまったのだろうか。ハシバはヨドゥヤの胸中を慮る。
「何か話したいことでもあったんか?」
ハシバは呟く。
「せやけど、3秒程、遅かった」
リモコンは既に、作動してしまっている。
「何をするつもりや」
ヨドゥヤが叫んだ。
魔術は、おそらく何でも出来る。ハシバはそう考えていた。
元々、魔術の研究者であったハシバは理論的には可能という言葉を何度も見てきた。理論的には可能、出来ると明言されている。しかし、大抵の場合、それは世間一般では不可能と同義であった。
――可能と言っているのならば、出来る筈だ。ハシバはそう考えた。魔術陣が大きくなり過ぎるので実際的ではないのか? それならば巨大な魔術陣を構築してしまえばいい。紋様が干渉し合って、平面上では再現出来ないのならば、魔術陣を多層構造にすればいい。
そして、天下太平の世を築きたければ、自分が社会を動かせる地位につけばいい。積み重ね、成り上がっていけばどんな大事だって成し遂げられる筈だ。想像以上に眩い光に思わず、よろめき床に倒れ込む。
「ハシバ、答えるんや、何をした」
「何やと思う?」
ハシバは床に倒れ込んだまま、天井を見上げる。まだ光で視界はぼやけている。
――これが初めの一歩。だが大きな一歩だ。本当に。




