第123話「1・2・3」
「ハシバ、捕まって無かったか」
一応、拘束はしておいた。だが、直接捕まえた訳ではない。リモコンの奪取が優先される中で、そのような余裕はあまり無かった。それにハシバの捕獲はナナたちの領分では無い。
「まあ、その可能性は高いと思っていたよ。元々、少ない可能性に賭けていたんだからね」
スーが答える。とは言え、全てが無に帰した訳ではない。ナナたちが取ってきたリモコンは今もヨドゥヤの手にある筈だ。
「ああ、聞こえとるみたいやね。ヨドゥヤ、どこにおるんかな? 繋がっている感覚はあるんやけど、どうにも居場所がはっきりしない」
ハシバはどうやら、ヨドゥヤに呼びかけているらしい。
「居場所不明? 何処かに潜伏しているのかな?」
ナナたちを牢屋から解放した後、身を潜めたのだろうか。
「……これはある種の表明や。使者の皆様方も聞いとるやろ? この機会に一つ宣言をしとこうと思ってな」
ハシバの声は朗々と響く。
「ヨドゥヤ、あんたの考えも悪く無い。副議長として、私とは違う方策を模索するのは大都の未来を案じる上で必要なことだと思う。せやけど、今回は私の方法でいかせてもらいましょう」
「何の為の宣言なんだろう」
スーが言った。その通りだ。ハシバは何の意図を持っているのか。ハシバは戦争を望んでいるとヨドゥヤは語っていた。勝つための戦争では無い。負けない為の戦争、防衛。その末にハシバの描く天下があるのだろうか。ナナにはその版図は描けない。
「私は平和を築く為に何でもする。何でもや。……私が何をしようとしているのか分かったら止めてもええ。ヨドゥヤにはその権利がある」
ナナは嫌な予感を覚える。
「リモコンは、そうそう量産出来るものやない。それを知ってたから奪ったんやろ。せやけど1つしか作れんかった訳でも無い。リモコンは2つあるんや」
嫌な予感は当たった。こうしてふと湧いて出た嫌な予感があっさりと当たってしまうこともある。
「私とヨドゥヤで1つずつって訳や。せやから、私が何をしようとしているのか分かれば、それを打ち消すことが出来るってことや」
ハシバの喋る背景で何かが聞こえた。
「お、ヨドゥヤ、そちらから出向いてくれるとは、おおきに」
どうやらハシバの近くにヨドゥヤが現れたようだ。
「せやけど、3秒程、遅かった」
その瞬間、町全体が光で包まれる。ナナは宣言の意味を理解する。これは一方的な通告だ。言葉を交わす会議に対して、今のハシバの言葉には返事をすることも出来ない。
「してやられたね」
ナナは呟いた。




