第122話「仲間の条件」
ナナが扉を開けると、ダンが部屋に入って来た。アラカも連れ立っている。
「昨晩は、大丈夫だったか?」
「……何のこと?」
ナナは尋ねる。
「何のことって、揺れに気が付かなかったのか? 何でも巨大人工生物が衝突したという話だったな。俺たちが以前遭遇したのと同じタイプかもな」
「そうかもね。まあ、何も無かったよ」
「そうか。そりゃ良かった」
ダンは屈託ない笑顔を見せる。
「少々、顔に疲れが見えるな。よく眠れなかったのか?」
アラカが尋ねてくる。確かに、牢屋ではよく眠れなかったかもしれない。旅の道中と環境はそう変わらないが、精神的に負担が掛かっていたかもしれない。
「そうかもね。夜に起きちゃってその後、上手く眠れなかったかもしれない」
「それで、何をしに?」
スーが横から尋ねる。
「ああ、現状を共有しておこうと思ってな。色々話を聞いて回って来たんだ」
「朝から?」
「その通りだ。鮮度の高い情報だぞ。まず人工生物は去ってしまったらしい。来るのも突然、去るのも突然だな。あの北からのお遣いのお迎えにでも来たのか? まあ、兎に角、脅威が去ったことで城壁の修理は急速に進んで、もう完了しそうらしい。とんでもない早さだな。技術力、団結力そう言ったものが優れているんだろう」
大都の人々はネットワークによって繋がっている。それも効率を上げているのかもしれない。
「まあ、あまり大した情報では無かったかもしれないが。間も無く朝食だ。また後でな」
ダンたちは去って行った。
「――わざわざ報告に来てくれるなんて」
ナナは呟いた。
「そうだね」
スーも同意する。
「仲間なんだよなー」
所属する組織、価値観、相違点は多々あるが、仲間としての絆は確かに深めてきたのだ。そのことを改めて実感する。
だが、それでも尚、壁が存在する。ナナは、ダンとアラカに何も伝えなかった。それは律儀に報告しに来てくれたダンたちに対して、不義理な態度であるとナナは思ってしまう。そう思ったところで絶対に伝えることは無いが。
その時、声が聞こえた。おそらく町中で聞こえている。音の反響具合からして、町中に声を発信する機械が設置されているのだろう。多分、大都コーサカの入り口に設置されていたものと同じやつだ。
「ああ、ああ。どうも、聞こえとる?」
喉の調子を整えるような声の後に、問い掛けがなされる。
発信機は、屋外に設置されているらしく、声は少しくぐもって聞こえたが、誰の声であるかは、はっきりと判別出来た。
「ハシバの声だ」
ナナは言った。




