第121話「砂漠の軍師の受難」
ナナたちは牢屋から解放されると、ハッサクは自身の部屋に戻って行った。ナナ、スー、バンカは軍師の下へ向かう。部屋のベッドに放置したままだった。
そして部屋に戻ると、部屋では、ベッドに軍師が鎮座していた。
「これはこれは、南都の従者の皆さんですね。怪我の手当てをして下さったようで」
ナナたちが治療をした旨を、手紙に記しておいた。軍師はそれを読んだのだろう。
「ええ、酷いお怪我でしたので、やむを得ず治癒魔術を使わせていただきました」
バンカが答える。
「どうも、ありがとう。昨晩の記憶は曖昧なのだが――」
「……お身体の調子は良さそうですので、お部屋までお送りいたしましょう。それともお付きの人をお呼びしましょうか?」
「いや、いい。自分で戻ろう。だが、私は何故怪我をしたのだろう?」
「申し訳ありません。私には分かりかねます」
バンカは毅然とした態度で答える。本当ならば、まだ軍師は尋ねたいことが色々あったようだが、バンカの堂々とした様子に言葉が詰まる。この状況は大分、不自然である。通常、押し切れる状況では無い。だが、命の恩人に対して、軍師は強く出れないようだった。
大きく切り裂かれていた傷は塞がっている。しかし、その跡は触れれば分かる。もしかしたらバンカの技量であれば、完全に治すことも出来たのかもしれないが、傷跡のおかげで、それが恩人の証明となり、軍師に対して優位に立てていた。
「部屋まで、お送り致しましょう」
バンカが再び同じ提案をした。
「分かった、お願いします」
「……怪我の件については後程、大都の副議長様に、相談されてはどうでしょうか?」
「ええ、そうですね」
軍師とバンカは部屋を出て行った。
軍師も全く、災難だった。ネットワーク生物、正確に言えばネットワーク生物に操られた人間に襲われて、あわや死ぬところだった。また、襲われやしないか心配だが、ヨドゥヤ曰く多分、大丈夫とのことだ。
不安になる言葉だが、ある程度の説得力はあった。ヨドゥヤがネットワーク生物に支配されている、これは間違い無いだろう。だが、ネットワーク生物が構成するネットワークにおいてヨドゥヤは重要な部分を構成しているようだ。例えるのならば、動物に対する心臓のようなものだ。身体制御における重要器官。ヨドゥヤが判断を下せば、ネットワーク生物に支配される人々はそれに従うらしい。あくまでもハシバが定めた規範の中ではと言うことだが。
まあ、それ以前に優先すべきことがあったというのも大きいかもしれない。空、巨大な人工生物。差し迫った危機はそちらだ。些細なことに拘っている場合では無かった。
優先度が覆るとすれば、お遣いが狙われるとか、リモコンが奪われるとかそう言う場合だろうか。それならば現在のナナ達には当てはまらない。過去に該当したとしても現在の優先度には干渉しない。――単純な仕組みだ。
扉がノックされる。
「起きているか? ダンだ」
ナナは扉を開けた。




