第120話「君がいない朝」
目を覚ました。立ち上がると伸びをする。そして、視線を感じて牢屋の外を見やると、沢山の目がじっとこちらを見ていた。相変わらず、ナナたちは監視されている。
「おはよう、ナナ」
ナナが床を見下ろすとスーと目があった。スーは毛布に包まり床に寝そべっている。
「おはよう、スー」
ナナは挨拶を返した。
「おはようございます」
バンカだ。バンカは壁際に立って直立している。いつからそうしているのだろうか。もしかしたら寝ていないのかもしれない。昨晩も毛布こそ受け取っていたが、ナナたちが寝る段階になっても姿勢良く壁にもたれ掛かっていた。
「……おはようございます」
ナナは挨拶を返す。スーも同様にバンカと挨拶を交わした。
ハッサクは、ユキタに背中を預けて座ったまま寝ている。ユキタも寝ていたが、熟睡している訳ではないようだった。鼻をひくつかせて周囲に注意をやっているのが分かる。主人に付き添って一緒に寝ている様は微笑ましかった。ハッサクとユキタは強い絆で結ばれているのだろうと思う。
誰かの足音が近づいて来た。その途端、ハッサクが目を覚ます。ユキタも同様だ。それはヨドゥヤだった。ヨドゥヤは憔悴し切っていた。
「……解放いたします」
ヨドゥヤは一言そう言った。
「そうか、そうかそれは何より」
ハッサクが言った。
「あんたら、いつまでも閉じ込めてもしゃーないしな。お遣いが連れ去られて、北との交渉も出来へんようになったし」
ヨドゥヤは力無く語る。お遣い1人の有無で大きく状況が変わるものだ。
「諸々、水に流して、これでしまいにせーへん? うちも水に流す」
「それがよろしいでしょう。同盟を今後、存続させていきます為にも今回の1件は全て、精算すべきでしょう」
バンカが言う。やや強い語気だ。確かに攻め時ではあるかもしれない。多少、整合性が取れていなくてもここでひと段落つけられれば、今後取れる選択肢を増やすことが出来るだろう。
「せやな。今回はほんますんまへん」
「こちらこそ、意に添えず申し訳ありません」
ハッサクはヨドゥヤとバンカの会話を黙って聞いていた。何か口出しをするかと思っていたが、口を開く気配は無かった。
「イヨさんも巻き込んでしもうて、申し訳ありまへん」
「……儂がこの場で言うべきことは何も無い」
ハッサクは一言、そう言った。
「そうですか。いや、そら、そうですね。巻き込まれただけなんやから」
どちらかと言うと、積極的に巻き込まれにきていたがそれは言わなくてもいいだろう。この場がまとまるならそれでいい。どうせ、この先は荒れることになるのだから。
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