第12話「キノコの食べ方」
段々と辺りが明るくなり始めていた。ナナは料理人の所に向かっていた。料理人の朝は早い。書類の記述によると朝から熱心にしこみをしているらしい。そうして綿密な下処理を施されたキノコ料理が皆の志気向上に繋がっている、そんなことが書類には記されていた。
都議会が所有する食堂に着いた。調理場を覗くと長身の男が忙しそうに働いている。
「すみません」
ナナは声をかける。気づく様子はない。
「すみません」
ナナは声を張り上げる。
「すまない、忙しいから後にしてくれ」
「キノコの話を聞きにきました」
「何だと、それを先に言ってくれ」
長身の男、料理人は作業を止めるとナナの方を向いた。
「何について聞きたい? 俺はキノコに対しては一家言あるぞ。外の世界の材料を一切使わない古代風キノコソテーは評判を呼んでいる。地産地消料理というやつだな。キノコは生育する土地で風味が変わる」
長身の男はペラペラと捲し立てる。
「その土地で育ったキノコがその土地の人間に一番適合する、これが俺の持論だ。この辺は土が甘いからな、ほんのりと甘みのあるキノコが採れる」
「……都議会から来ました。媚薬キノコについて聞きにきました」
「成程、ちょっとこっちに来な」
ナナは調理場内に招き入れられる。料理人は木箱を引っ張り出してくる。七色の光が漏れている。一個一個の光量は大したことがない筈だから中には大量の媚薬キノコが詰められているのだろう。
料理人は木箱から1本、キノコを取り出す。
「このキノコも中々、面白い。料理に彩りを与えてくれそうだとは思わないか? それに媚薬の効果を上手く利用できれば辛くないカレーが作れそうだ。だが、問題があって熱を加えると媚薬の効果が消えてしまうんだ。まあ、それで中毒性も消えたのはいい発見だったが」
媚薬キノコは熱に弱い。それは重要な事実かもしれない。愛の園の元メンバー、彼女たちの呪縛が解かれたのも時間経過ではなく、火事によって熱せられたからなのかもしれないのだ。
「あなたはどうやってキノコを入手しているのですか?」
「ああ、定期的に運び屋の接触があるからそこから受け取っているんだ。それを指示通りに流している。勿論、あんたらの指示通り俺が自主的にやっていることだ」
成程、やはり都議会はキノコを売り捌かない。
「マントについて話を聞きたいのですが」
酒場の情報提供者もマントを被った人物について述べていた。都議会の推測通り、何かあると見ていいだろう。
「ああ、いつも不意に現れるからびっくりするんだよ。気配なくいつの間にかそこにいるんだ」
「何か、他に気づいたことは?」
「マントを被っているってことは正体を隠したいんだろうな」
「まあ、それはそうでしょう」
「そうなんだが、なんて言うか、シルエットを隠したがっているように見えるんだよ。俺はマントが男か女か分からない。声も中性的だしな」
ナナは考える。マント、黒幕の実像が一向に描けない。
「そんなことより、キノコの話に戻ろう。媚薬キノコは無限の可能性を持っている」
「――それはどうも。いつも媚薬をご愛顧頂きましてありがとうございます」
年齢も性別も判然としない声だった。ナナはゆっくりと振り返る。そこにはマントを被った人物が立っていた。
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